需要と供給に関して大きな変化が想定される中、業界に質的な変化を促す4つの大きな潮流がある。4つのD、Decarbonization、Decentralization、Deregulation及び、Digitalizationである。(図B参照)
Decarbonization:低炭素化
温室効果ガスの排出により地球温暖化が叫ばれ、IPCC(International Panel of Climate Change)のレポートなどでは、その悪影響に対する警鐘が鳴らされた。京都議定書、欧州の202020ターゲット設定、それに基づく各国の目標設定と政策支援などで低炭素化への取り組みが進められている。京都議定書では強いペナルティ、先進国と新興国の間の不公平感などもあり、中国や米国などの排出大国が枠組みに参加していなかったが、直近のパリ協定により、両国を含む初めての国際的な枠組み合意に達した。このような流れは、大規模のエネルギー供給に資する化石燃料の中でも特にガス、また、カーボンニュートラルな原子力発電、再生可能エネルギーの成長を促進する。 火力発電の効率化、消費側の省エネルギーなども進められて行くであろう。
Decentralization:分散化
これまでのエネルギーシステムは、主に、消費地から必ずしも近くない大規模な設備でエネルギー製造を行い、それを消費地に届けるというモデルである。これに対して、分散型エネルギーシステムにおいては、エネルギー製造が分散化され、より消費者・消費地に近いところで生産される。分散型の利点は、環境配慮の側面からは、輸送によるロス(電力の送電ロス)が減少するため、省エネ、低炭素に貢献できる。安定供給の観点からは、数少ない集中型の製造設備に依存しないために安定性が高まる。
アジア諸国では島嶼国もあり地理的な状況から電化率が100%に満たない状況であり、再生可能エネルギー、コージェネレーションなど、分散型の多様なエネルギー供給が電化率向上、エネルギーシステムの最適化に貢献する。ドイツにおいても、長期的に分散化が進展していくと見られており、2030年断面で、集中型は発電量ベースで半分程度に減少するとの見方もある。
また規模の変化のみならず、収益性の変化もあり、集中型の収益性が減少する一方で分散型は収益性が高まる、という見方がある。このようにエネルギー製造の分散化が進む中で、供給をコントロールできない太陽光や風力等の再生可能エネルギーも増えるため、需要と供給をコントロールし、最適化する機能が重要性を帯びてくる。スマートグリッド、VPP(Virtual Power Plant)といった概念と技術もこれら最適化ニーズに対応する。
Deregulation:規制緩和
現在日本で、電力・ガス業界の自由化が進められている。製造(発電)、流通(送電 ・配電)、及び販売というバリューチェーンがある中で、従来は、垂直一貫事業モデルで、地域ごとに事実上の地域独占が認められていた。 社会インフラとしての効率性から二重投資と競争がなじまない送電・配電は別として、小売と発電領域に競争環境を導入しコスト低減やサービスの向上を促す。垂直一貫事業モデルをアンバンドル(垂直分離)し、発電と小売領域への事業参入を自由化する。
導入状況は地域により異なる。 欧州では、1990年に英国で電力ガスの自由化が始まり、大陸でもドイツで1998年、その他の国々も順次自由化を進めた。米国においては、電力料金の違いなどを踏まえて、州ごとに自由化の方針と導入状況が異なる。
日本では、2016年に電力の小売り全面自由化、2017年にガスの小売り全面自由化が導入された。1995年に独立系発電事業者の発電市場への参入が認められ、2000年からは特別高圧顧客への小売りが自由化されて以降、ようやく小売り全面自由化まで到達した。電力で2020年、ガスでは2022年にアンバンドリングが予定されており、一連の自由化が完了する予定である。
この規制緩和は、従来からの事業者にとっては、事実上独占であったホームマーケットを競合他社に侵食されるということにつながる。ホームマーケットを守りながら、いかに新たな領域で事業展開を拡大するか、が大きな課題となる。電力会社がガスを売る、ガス会社が電力を売る、国内他地域に進出する、海外に展開する、など、さまざまな戦略的なアクションが要求される。
Digitalization:デジタル化
IoT、インダストリー4.0、AIなど、さまざまデジタル技術の導入活用が、業界を問わず進みつつあるが、エネルギー業界もその例に漏れない。例えば、タービンの保全については、予知保全の導入が進んでいる。シーメンスは自社が製造販売した世界中のタービンとつながり続けていて振動、温度、稼働時間などの運転データを収集、これを分析して常態との乖離(かいり)を確認・チェック、異常がみられる場合に、保全を実施する。これにより、ダウンタイムの最小化、過剰な交換部品在庫の削減などが実現できている。また収集されたデータを、次世代製品の開発にも活用しているという。デジタル工場を導入し、発電所の建設から運用・保守までを、建設開始前にあらかじめシミュレーションすることにより、建設コストを削減、建設リードタイムも短縮が可能になる。 デジタル技術の活用は端緒についたところであり、これからより幅広な用途において利用が進展していくことが想定される。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授