EC、通販事業における業務プロセスのほとんどの領域は、AI化や自動化によって置き換わるものが表れてきた。一方、人間でなければなせない領域としてハイタッチのコミュニケーション領域が残ることも間違いない。
ITmedia エグゼクティブ勉強会に、JIMOS DMS事業部長 兼 ホールセール事業部長 川部篤史氏が登場。これまでに培った通信販売モデルによる事業構築や製品マーケティングにおける戦略立案および実行などの経験や実績、ノウハウを生かし、「EC、通販事業者が今、直面する変化――AI化、オートメーション化」をテーマに講演した。
川部氏は、千趣会で1994年から約12年間、頒布会事業の製品企画やEC販促設計、制作を担当。2006年に大塚製薬に転職して、スキンケアやサプリメント、特定保健食品などの通販事業を立ち上げた。2012年には現在のJIMOSで、当初は自社通販化粧品の「マキアレイベル」を担当。2014年からは他事業者の通販事業支援を担当している。
「近年、通販事業における市場の変化が激しい。人工知能(AI)やオートメーションはもとより、広告、CRM、物流、DBなど、さまざまな変化に対応しなければならない。中でも、無視できないのが、AIの分野である。現在、4強のIBM、Microsoft、Google、AmazonのAIをはじめ、主導権を握るべく、世界中の企業が激しくしのぎを削っている」(川部氏)。
近年、話題になった「AI」的なトピックとしては、囲碁の世界チャンピオンに勝利した「AlphaGo」が記憶に新しい。また少し前では、ロボット掃除機の「ルンバ」が、勝手に部屋を掃除して、充電スポットに戻る機能に驚かされた。さらにそれ以前では、炊飯器にAI(マイコン)が搭載され、誰もがおいしいご飯を炊けるようになった。
川部氏は、「“これまでに最も売れたAI機器は、マイコン炊飯器である”というジョークもあるほど。各時代において、“かゆいところに手が届く”アクションが自動で行われる様子に“知性”を感じ、各時代で『AI』的なトピックと呼ばれてきた。それでは、AIとは人工の“知能”なのだろうか?」と話す。
現在のAIは、大きく「特化型」と「汎用型」の2つに分類される。特化型は、インプットされたデータに基づき、定められた目的やゴールに向けて、最適なアウトプットを返すものである。一方、汎用型は、理論的に考え、計画を立てて問題を解決するほか、抽象的にも考えて、その「考え」を把握するものである。
特化型は、道具の延長線上であり、「関数電卓」や「よく切れるハサミ」といった道具と本質的には変わらない。一方、汎用型はまさに知性であり、「ドラえもん」や「鉄腕アトム」の世界である。現在、人類を超えると危惧されているAIは、汎用型についての議論である。しかし、汎用型の研究は、特化型の進化に比べれば、まだまだこれからというレベルである。
「これからのビジネス環境では、道具である特化型AIは、いや応なしに使わなければならない。特化型を使えば競争に勝てるというものではないが、使わなければ勝負にならない。例えば、手書文字をスキャンしてテキストデータに変換するなどは、AIとして意識せずとも普及している。他にもスマートスピーカーのように音声でプログラムを起動する、自動運転車のように車体データや道路データからアクセルブレーキハンドルといった動作系をコントロールするという事例も数多くある」(川部氏)
あるコールセンターでは、1次問い合わせにチャットbotを採用、FAQレベルの問い合わせにはチャットbotで対応し、より高度な問い合わせの場合には、チャットbotがオペレーターに自動的に引き継ぐという仕組みを導入している。また、ある宅配業者では、地域限定ながら、自動運転で宅配便を届ける実証実験を行っている。
「単純な認識率においてAIは、すでに人間を超えている」と川部氏は言う。例えば、2012年に開催された画像認識コンテスト「ILSVRC」では、ほとんどのチームが20%以上の誤認率だったのに対し、カナダのトロント大学チームは、ディープラーニングを活用することで、15.3%という誤認率を実現し、他のチームを圧倒したことは記憶に新しい。
その後、2014年に開催されたILSVRCでは、Googleが誤認率6.7%で優勝した。2017年にはGoogleの発表によると、音声入力の誤認率が4.9%を達成したとしている。ちなみに、人間の誤認率は5.1%といわれており、認識率はすでに人間を超えている。ただし、人間を超える正答率でありながら、根底を疑いたくなるような間違いをするのも現在のAIである。
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明治学院大学 経済学部准教授