「やらされ感」じゃなく「やってる感」で動く職場にする方法を教えよう――東急スポーツオアシス 代表取締役社長 平塚秀昭氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(2/4 ページ)

» 2018年04月06日 08時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

不動産開発・運営からフィットネス業界への転身

長谷川: 平塚さんはもともと東急不動産に入って、今はオアシス(東急スポーツオアシス)の社長になられていますけど、全然違う業種の社長になるというのはどうだったんですか?

平塚: 真面目な質問ですね。これは語ったら長いよ。

 僕、もともと理系で、土木で東急不動産に入ったんです。スキー場作ったりゴルフ場作ったりの、現場監督とか、いろいろやってました。そしたら、こんなキャラなので「運営に行け」という話になって、東急リゾートサービスでゴルフ場、スキー場、ホテルの運営をやりました。

 開発業から運営業になったわけですけど、個人的には何の壁もなくて、自分の作ったものをそのまま運営するので、かえっておもろかった。こんなキャラなので、取りあえずみんなと楽しくやりましょう、という話でね。ただ、ホテル業というのは、支配人、料理長っていう偉い人がいて、徒弟制度の世界だから、やっぱり風通しが悪かったんです。どうしようかなと思っていたら、東急スポーツオアシスでは、みんな“さん付け”で呼んでいるのを知りました。社長でも平社員でも、加藤さん、田中さんって呼ぶわけです。そうすると役職の壁がなくなってコミュニケーションが取りやすいですよね。

 これはいいなと思って、リゾートサービスでも“さん付け”をやろうとしたんですけど、みんなが反対するんですよ。ホテル業というのは、支配人が憧れなんです。支配人って呼ばれたいがために頑張ってきて、やっとなれた時に“さん付け”じゃガクッとくる、と。料理長、板長って呼ばれなくなったらやる気なくなる、みたいな。そんなことで総スカンを食らって、結局変わらなかった。

長谷川: なるほどね。

平塚: ホテルの従業員って、「お客さま、御用はございませんか?」という受け身の姿勢で動くので、発想も受け身なんです。自分らで動かない。これはおもろないなと思って、またオアシスを参考にしました。オアシスでは元インストラクターで、お客さんに対して「どこが悪いんですか? じゃあ、こうしましょう」と提案してきた社員が多いから、こうしましょう、ああしましょう、という声が出てくるんですね。あんなふうな会社にしたいな、と思っていたら、本社に呼ばれて「お前異動だ」って。「え、異動? リゾートサービスにいたらゴルフできるのに、嫌やな」と思って「どこですか?」と聞いたら「オアシスや」と。「分かりました!」ということで、来たという感じですね。

IT化、データの可視化で、入会数の落ち込みが回復

長谷川: フィットネス事業の社長となると、もちろん勉強はされたと思いますけど、門外漢ですよね。最初はよく分からない中でも方針や指示を出して、決めないといけないというところで、どういう風にやってきたんですか。

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平塚: ええこと聞くね。僕、もともとはスポーツクラブ否定派やってん。サッカーやっていたので、金払って屋根の下で汗かくんだったら無料で山の中走ったらええやんけ、というタイプでした。でも、オアシスに行くことになったので、まずは「何してるのかな?」と見てみて、そしたらスポーツクラブの良いところも分かってきた。暑い日でも空調が効いてるし、仲の良いスタッフが正しい指導をしてくれるし。でも月1万円ずっと払う、その継続をどうするか――という話になるんやけれども……。最初はやっぱり、細かいことは言わなかったです。俺は素人だから、好きにやってくれと。

 うちは会社が好きな人間が多いんですよ。ハンズもそうでしょう?

長谷川: 多いですね。

平塚: うちも、オアシス大好きで、アルバイトから社員になるやつがいっぱいいるんです。年に1回社員登用試験があるんだけど、5年連続で落ちてもまだ受けるようなやつが多い。変でしょ?

長谷川: 変ですね。

平塚: 落とす方も落とす方で、受ける方も受ける方(笑)。そんなおもろい会社で、基本的には好きなようにやってくれ、という風にしてました。

 たまたま僕が入った2013年は入会が多くて業績が良かったんですよ。「なんや楽勝や、なんもすることないわ」と思ってたら、14年、15年はガンガンガンと入会が落ちていって。新店があったので、売り上げはなんとかキープ、もしくはちょっと上がってたけれど、既存店の会員数がどんどん減っていたんです。

 これはヤバイと思って、IT化を始めました。

 それまで入会者を増やすというのは、「チラシを配る、看板を出す、たまたま来てくれた人を適当にキャッチする」――という偶然の産物だったんですよ。偶然を必然にせなアカンということで、来てくれた人のデータを全部残すようにしました。前は紙ベースだったから、見学で名前書くんですけど、入会するとなったら、また名前書いてたんです。ネット入会も、ネットで入力して来店したらまた紙に書かなあかん。うっとうしいやん。そんなもの1回書いてもらったら、「あ、この前お越しでしたね、じゃあこれで」って、お客さんの負担をなくせということで、入会や見学のペーパーの申込書を全部電子化したんです。iPadで、「Salesforce」をベースにして。

長谷川: いいですね。

平塚: 電子化して、Salesforceでデータを整理しました。でも、なんか見づらいんですね。なんとかならないかと言っていたら、ウイングアーク1stの「MotionBoard」というBIツールがあって、一気に見やすくなりました。

 それまでは、入会の情報も週報でしか見られなかったんですよ。毎週日曜日に顧客管理のシステムからデータを出して、担当者がExcelで打ち込んで、月曜日に紙ベースで報告するという。それだと、今週調子悪いな、というときに間に合わへん。なんとか日報にできへんかということで、SalesforceとMotionBoardをつないで実現しました。

長谷川: なるほど。

平塚: それから、今月はどういう率でいったらいいかの予定と実績をグラフで表示するようにしました。予定より上を行っていれば勝ちでグリーン、7%以内で下回っているときはイエロー、それより下ならレッド。それを店舗ごとに1日単位で翌日には出すようにしたら、人間て面白いもんで、他の店舗のも見るんですよ。「あそこの店と比べて、俺のとこまずいやん」、という気になる。イエローゾーンに入ったら次の策を考えて、レッドに入った瞬間にそれをやれ、というふうにしたら、ワーッと動き出して。

 その仕組みは2017年6月から動き出して、結局負けたのは11、12月だけ。2018年に入ってからは6月は負けたんやけども、あとは全部勝ってるんですよ。

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