長谷川: 「ITで見える化して良くなりました」という話はよくありながらも、ちょっとフワッとしている話も多い中、今のお話は数字的にも実績が出てるし、ITと人間の心とか思いみたいなものをうまく掛け合わせてうまくいっているのが面白いですね!
東急ハンズでも、本社が「何かしろ」と言うよりも、店舗同士が競い合って、かつ協力し合うような、そういう土壌ができると、勝手にものすごいやっていくっていうのがありますね。
平塚: 勝手にやる方がパワー出るんですよ。こっちから、こうやれ、ああやれって言ったって、「分かりましたー」って返事だけで動けへん。それを、あえて言わないで、「ちょっとお前、イエローきてるで、どないすんねん、考えてるか?」「考えてます」「取りあえずやってみいや、別に失敗してもかまへんし、失敗なんてしれてるで」と。
以前は、今月の目標に届かないとなると諦めて、今月入ったお客さんも来月に回してたんですよ。例えば、今月95%で負けてるぐらいなら、80%で負けて、15%を翌月に送った方が、翌月がラクだから。
今は日々の数字が分かるから、自ずと前倒ししてくる。そうすると、来月しんどいわけだけど、「今月あと3日しかないぞ。来月はまだ31日あるやろ」と。「だったら、今月に前倒しして、来月また考えた方がええやんけ」って言い出したら、どんどん遅れが減ってきまして。
長谷川: ほう。
平塚: こうなったら、社長はラクですよ。細かいこと言う必要もないし、言わんでも動きよるからとてもラク。
するとまた、次のところに目を向けるんです。オアシスは、やっぱり入会が一番大事だから、会員数の確保のためにいろいろやってきたわけ。それが軌道に乗ってきて、今度はスクールとかキッズのスイミングとか、そういうところの入会に目を向けられるようになりました。
長谷川: それはいいですねぇ。
平塚: 話を戻すと、スクールの内容とか、トレーニングの内容とか、そんなことは、分からないから、自由にやってくれと。大事なのは、オアシスの根源となる部分の確保を、「やらされ感」じゃなくて「やってる感」で動くようにするということですよね。それをどんどんやっていく。
1年目、2年目の話に戻ると、中身はよう分からんから、要はどうやったら仕事をしたくなるかっていう、そこじゃないですか。で、「enjoyb(エンジョイブ)」っていうのを言うようになりました。これは、enjoyとjobの造語ね。
この2つをくっつけたら、「enjob(エンジョブ)」ってなりそうですけど、enjoybにしたのは2つ理由があって。エンジョイ、楽しむってすごく語感がいいじゃないですか。その語感を残したいということと、ジョブとの間に“y”を残したのは、ワイワイ言いながら仕事しようやっていう意味です。
まあ、ギャグですけどね。こうやってマークも作って、PCに貼ったり、資料に入れて配ったりしてね。
長谷川: そのステッカーは、自分で勝手に作ったんですか? 会社で作ったんですか?
平塚: 会社で。
要は楽しくやろう、と。お客さんは楽しむために来てるんやから、自らも楽しもう、ということです。でも、楽しむには、やっぱりしっかり考えて仕事せなあかん。「楽しむ」と「楽(ラク)」って同じ字だけど違うぞ、と。ラクしたらあかん、楽しむんや、ということを、最初に言いまくったんです。
まあだから、業界が違ってても、いかにスタッフが、仕事しやすいようにするかという意味で、根本は同じですよね。売り上げ上げるとかね、ギャアギャア言うのは先の話で、その前に動きやすくなれば、勝手に上がると思ってんねん。
長谷川: どの社長も、皆さんそう言うてはると思うんですね。従業員が楽しくやるのが一番事で、売り上げは後でついてくるって。ただ、「よっしゃこれええやん」って言ってステッカー作ってベタベタ貼るぐらいやらないと、やっぱり従業員って「前の社長も同じこと言うてたし……」みたいなところがありますよね。平塚さんの場合、わけの分からん駄じゃれをかまして本気でやってるところが、従業員に「あのおっさん、ほんまに楽しんでやろうと思ってはるに違いない」と伝わってる気がします。
平塚: ほら、こんな俺の顔入りのカレンダーも作って、各店舗に貼ってます。
長谷川: 普通の人は恥ずかしくてやらないですよ、こんなこと。それを、やってはるのが平塚さんですね。
平塚: ウケだけでやってんねん。けど、分かりやすい掛け声が大事だな、というのは、実はスキー場で経験したことなんですよ。
スキー場でお客さんとじゃんけん大会があってね、僕も社員としてお客さんとじゃんけんしてたんです。よく「最初はグー、じゃんけんポイ」ってやるじゃないですか。でも、おもろないと。「スキージャム」っていうスキー場だったので、「どこのスキー場行く?」というときに、「やっぱりジャムやろ」って言ってほしいなということで、「最初はグー」を「やっぱりジャム、じゃんけんポイ」にしたんです。「人差し指と親指で”J”の形にして『やっぱりジャム』ですよ。グー出したら失格ですよ」とか言って、盛り上げて。お客さんも俺のことを「ジャムおじさん」とか言い出してね。
そしたら、アルバイトがむっちゃ反応してきたんです。仕事終わったアルバイト同士で「やっぱりジャム、やっぱりジャム」って言って肩組んで歩き出して、ジャムじゃんけんやってるわけですよ。これってけっこう効くなと思って。単純なことでも、大勢の全然価値観の違うアルバイト陣が、1つになれるわけですよね。だから、掛け声、大事やなと思って。
長谷川: へぇ。
平塚: オアシスもアルバイト多いんです。アルバイトさんの力で動いてる会社って、アルバイトさんが来なかったら終わりやし、アルバイトさんが勝手な行動に移ったら終わりやから、なんとかこう、少なくとも会社に目を向けてもらわなあかん。そうしたときに、「我が社は売り上げ◯◯で、今後日本のために、どうのこうの……」って言ったって、絶対来ないでしょ。一言でなんか言わないと。最初は、「楽しくなければ仕事じゃない」って言ってたけど、やっぱり長いから、enjoyb考えて、これをオアシスでバーっと広げました。短く分かりやすくて、ギャグにもなる。一石二鳥ですよ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授