フジテック、聖域なきDXへの挑戦ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

難しいといわれる製造業のテレワーク。試行錯誤から得られた気付きやアドバイス、コロナ危機を乗り切るための情シスの役割について、フジテック デジタルイノベーション本部 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長の友岡賢二氏が語った。

» 2020年10月14日 07時14分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 エレベータ/エスカレータのグローバル企業・フジテックは、緊急事態宣言を受け、オフィスで働く従業員を対象にテレワークを開始した。製造業と建設業の両面を併せ持つ同社には、現場でしかできない業務も多く、これまで在宅勤務制度の推進に積極的でなかった。

 難しいといわれる製造業のテレワーク。さまざまな試行錯誤から得られた気付きやアドバイス、コロナ危機を乗り切るための情シスの役割について、フジテック デジタルイノベーション本部 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長の友岡賢二氏が語った。

振り返る、コロナ禍の試行錯誤

フジテック デジタルイノベーション本部 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏

 緊急事態宣言発令直後から4月のフジテックの動きは、ITmedia エグゼクティブの記事を参照してほしい。ノートPCの争奪戦に始まり、しばらくは混乱したものの、Amazon WorkSpacesを使ってたった1日でテレワーク環境を全社展開。クラウドを積極活用してきた情報システム部門の底力を見せた形だ。

 ところが、設計者を中心に、肝心のユーザーたちはその環境に満足しなかった。Amazon WorkSpacesを介して自宅のPCから社内のデスクトップPCにアクセスする方法では、CADソフトの画面操作がカクカクしてしまい、作図効率は通常の50%以下まで落ち込んだという。

 そこで情シススタッフは、社内のデスクトップPCにつながずとも、Amazon WorkSpaces(AWS)からCADソフトを含めた自社システムが動作する環境を全てAWS上に構築。次の1週間で設計者100人ほどに展開した。

 そして、9月現在の構成は図の通りだ。

9月現在のネットワーク構成図

 「パフォーマンスという点では、やはり(3)のAWSとの直結が速く、自席で使っていた開発用ワークステーションなどを自宅に持ち帰り、専用回線でAWSに接続した人が最も速い。会社で働いているときのスピードを100%としたとき、体感している作業効率は、(1)のWindowsリモートデスクトップが30〜50%、(2)のCAD環境接続が50〜70%、(3)が90%くらいです。最終的には既存オンプレミスの環境は、全てAWSに移行していきます」(友岡氏)

 急速に進んだテレワークは、従来型のネットワーク設計がはらむ拡張性やユーザビリティといった課題を浮き彫りにした。フジテックも例外ではない。多くのテレワーク社員がVPNを使って同時接続する状況では、思うようにパフォーマンスが上がらない。

 「境界防御の考え方そのものが限界に来ています。塀の中と外で区切るのではなく、インターネットの世界でいかに安全に仕事ができるプラットフォームを提供するかが、今の情シスの命題です」(友岡氏)

 9月には、CrowdStrikeを導入し、インターネットブレイクアウトを実装した。インターネットブレイクアウトとは、各拠点から直接インターネットやクラウドにアクセスできるようにする仕組みのこと。テレワークの普及に伴い、VPNのトラフィック増加を抑え、快適な通信環境が実現できるとして注目されている。「これによって、VPNライセンスの不足や、ネットが遅いという問題が解消できると期待しています」(友岡氏)

 テレワークのインフラが徐々に整備されていく中、もう1つの懸念は手元の仕事環境だ。「女優ライト」と呼ばれるLEDリングライトは、IT標準品として各部門の予算で購入できるようにした。「本当に必要なの?」と思われるかもしれないが、必要だという。

 「LEDリングライトがないときと、あるときの比較です。すごく違いませんか? ライトを当てるとこんなに健康的に見えるんです。一度使ったら、身だしなみを整えてウェブ会議に出ないといけないと思います」(友岡氏)

テレワークに欠かせないLEDリングライト

 また、自宅にWi-Fiがない社員もいたため、社用スマホのデータ量制限を外した。「細かいことですが、全社で生産性を上げていくためには、こういった配慮も重要です」(友岡氏)

 コロナ禍の心境の変化としては、これまで高いと思っていたSaaSが安いと感じるようになったという。

「Amazon WorkSpacesは月額3800円です。最初は高いと思っていました。しかし、仕事の生産性が下がることによるロスコストを考えれば、"そんなの1時間働いてくれたら十分ペイするじゃない"という認識に変わりました」(友岡氏)

本業が苦しいとき、いかにして節約するか

 ここまでは、IT投資によってコロナ危機を乗り越えてきたエピソードを紹介した。一方で、新型コロナの影響で本業が苦しい企業も少なくないだろう。友岡氏は、フジテックで効果があった節約術を披露した。

使われていないサービスの棚卸し

 例えば、Microsoft Officeのライセンス削減だ。フジテックはG Suiteを使っていたので、Microsoft Officeを使う機会が減っていた。

 実際に、Excel、Word、PowerPointそれぞれの利用率を調べると、15.26%の人がすでに使っていないことが分かり、ちょうどアップデートのタイミングだったので、2%くらい余裕を見て13%分は購入を見送り、結果1300万円以上の削減につながった。

 Microsoft Officeに限った話ではなく、サービス使用状況を棚卸ししてみることで、コスト削減の糸口をつかめるケースはありそうだ。

電話システムの見直し

 テレワーク中は、オフィスの電話が鳴っても取れない。フジテックでは、従来の電話システムからDialpadに切り替えた。Dialpadは、クラウド型のビジネス電話システムで、同じ電話番号を使ってさまざまなデバイスから利用できる。つまり、オフィスにかかってきた電話を自宅で取ることができるサービスだ。

  Dialpadは、もともとGoogleからスピンアウトした会社だということもあり、G Suiteとの親和性が高い。例えば、部長から電話があると、部長と自分のこれまでのメールや共有しているファイルが出てきて、このUXが非常に便利だ。設備投資で72%、年間経費で25%のコスト削減に成功した。

第三者保守のサービスの活用

 また、フジテックでは、Oracle DBMSをアップデートせずに現行のまま使い続けることを選択。アプリケーションも塩漬けにして、保守を第三者保守サービスのリミニストリートに移管した。これにより、ベンダーの保守費用と比べて半額になり、サポート品質も大幅に向上したという。

独自の追加開発をしない

 さらに、ITツールを独自の追加開発なしに使うことは、コストを抑えるだけではなく、IT業界の環境改善にも寄与するという。

 標準機能だけでは自社の課題を解決できないという場合、これまでは独自で追加開発が行われてきたが、多くのエンジニアが残業をして一生懸命作る文化をやめたい。

現場課題と標準機能+独自追加開発

 解決策としては標準機能でできることのみ解決すべき問題とし、他は残課題としてシステム化のスコープから外してしまう。反発されるかもしれないが割り切ることが必要だ。

現場課題とITツール

 皆が求めるソリューションは、ベンダーが機能拡張をしてくれるが、独自に追加開発をしてしまうと、サポート対象外となって機能拡張のメリットを享受できなくなってしまう。さらに独自開発やその保守運用のために使われている、多くのエンジニアのパワーを有効に使うことができる。

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