できる上司はやっている――行動改善コーチングと部下ノートで1歩踏み込んだ部下指導をITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

リモートワークで部下の指導がうまくいかないのではなく、もともとうまくいっていなかったのである。対面でもテレワークでも使える部下の指導方法を学ぶ。

» 2021年08月17日 07時02分 公開
[山下竜大ITmedia]
人事政策研究所 代表 望月禎彦氏

 ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、人事政策研究所 代表 である望月禎彦氏が登場。1991年に人事政策研究所を設立して30年以上、人事コンサルティングを提供してきた経験に基づいて、『対面でもテレワークでも使える! 部下を成長させる「部下ノート」のススメ』をテーマに講演した。

リモートワークだから部下の指導がうまくいかないのか

『「1万人の部下をぐんぐん成長させたすごいノート術 部下ノート』

 コロナ禍により、リモートワークが増えたことで、部下の指導がうまくいかないという相談が多い。例えば、部下と他チームのメンバーのコミュニケーション状況が把握できない、部下の仕事の目的や成果、プロセス状況を細かく把握できない、部下が正しく相談や報告をしているかが分からないなどである。

 しかし、リモートワークだから、部下の指導がうまくいかないのではない。これまで、オフィスワークでうまくいっていなかった部下の指導の問題点が、リモートワークにより表面化されただけのことである。オフィスワークにしても、リモートワークにしても、そもそもなぜ部下の指導がうまくいかないのか。

 スポーツの世界を考えてみてほしい。現役時代は一流選手であっても、監督や指導者になると、途端に二流になってしまう人がいる。逆に、現役時代はたいした成績でなくても、監督、指導者になって能力を発揮する人もいる。その違いは何なのだろうか。違いは「状況対応」である。

 状況対応とは、自分の過去の成功体験が、部下の指導の邪魔をしてしまうことだ。成功者の体験は、特殊なものであることが多く、参考にするのはよいが、万人に通用するかは別の話である。リーダーが出すべきパスは、成果につながらなければならないという「パス・ゴール理論」では、成果は「環境」と「状況」により変化する。

 環境とは、例えば大規模な工場では、5年、10年のスパンで、じっくりと人材育成ができるが、流行が毎日のように変化するゲーム会社では、5年、10年かけた人材育成では間にあわないということ。一方、状況とは、部下の仕事の成熟度である。望ましい状況対応は、できる部下が全体の2割、普通の部下が6割、できない部下が2割である。

 具体的には、どのような指導をすれば効果が上がるのか。できる部下にはコーチング、できない部下にはティーチング、普通の部下にはコーチングとティーチングをあわせた「行動改善コーチング」と、レベルにあわせた指導をする。コーチングは部下に任せ、ティーチングは部下を手とり足とり指導し、行動改善コーチングは部下とコーチが一緒に走る指導方法である。

 例えば、採用してすぐのできない部下へのティーチングでは、自由度はなく、テキストを1字1句暗記させる。これができる普通の部下には、上司の体験と部下の感性をあわせ、一緒に走る行動改善コーチングに移る。本当に全てを任せられるできる部下は、全体の1割程度。コーチングだけで人は育つという考え方は、変えた方がよい。

 特に大企業の人材育成で、部下に力をつけさせるためには、もう1歩踏み込む必要がある。単に話を聞いたり、コミュニケーションしたりするだけではなく、仕事で成果を上げる、仕事で認められる、会社に貢献できるなど、部下が充実感を得られることが重用。成果を上げたときが、部下のもっともうれしいときである。

 行動改善コーチングでは、まず1〜2カ月程度の短期の成果目標を部下と設定。次に切り口をあぶり出し、具体的な行動目標を設定するサイクルを回す。例えば、2〜3カ月で幹部研修を1本受注したいという目標を設定し、新規顧客にアプローチしたい場合、飛び込みで営業しても、コロナ禍の現状では会ってももらえない。そこで、「既存顧客に新規顧客を紹介してもらう方が効果はある」という自分の体験を交えて行動目標を設定する。

 これが行動改善コーチングである。

35年間書き続け、約2万人に伝えてきた部下ノート

 ある調査では、大手企業の8〜9割の部課長は、プレイイングマネジャーだといわれている。そのため部下の指導が必要であり、かつ悩んでいる。私自身も、社長でありながら講演活動も、研修も、コンサルタント業務も行っている。だからこそ、分かる秘訣(ひけつ)もある。そこで有効なのが「部下ノート」である。

 部下ノートのルーツは、新卒で10年間勤めていたユニ・チャームという会社での経験にある。当時の高原慶一郎社長の秘書を1年半務めたが、部下ができたら、部下ノートを作りなさいと教えられた。高原社長は、社長も部下から学ぶことがあるし、部下の指導でうまくいったこと、いかなかったことを書いておくことが重要という。

 ただし部下ノートは、高原社長の見よう見まねで覚えたものなので、本当に正しいかどうか自信がなかった。しかし、ある講演会でソフトボール日本代表の監督だった宇津木妙子さんと一緒になり、控室で部下ノートの話をしたら『ソフトボール眼(講談社)』という著書をいただいた。その中に、「性格分析ノート」を選手に書かせたことで、各選手は人に対する洞察力が養われたと書いてあった。これにより、少し自信がついた。

 部下ノートを35年間書き続け、そのメリットを約2万人に伝えていると、部下ノートを実践した人から、部下ノートが送られるようになった。現在、日本全国から約250人分の部下ノートが事務所に届いている。中には、カレンダーのフォーマットに書き込む人、日記のように長文を書く人など、効果が期待できない部下ノートもある。

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