企業を変え、社会を進める「デジタル×サービスデザイン」という方法論(1/2 ページ)

企業の在り方と社会課題解決の双方を考えるうえで、とても有用な考え方である「サービスデザイン」とは。

» 2022年06月13日 07時09分 公開
[横山浩実ITmedia]
Roland Berger

 企業は営利活動のための組織という根本はありながらも、現在はさらに「社会課題の解決」の役割を果たそうとする動きが増えている。理由はさまざまあれど、たしかにこの両者を実現できるのであれば、官民が共創し、未来につながる持続可能社会の実現が可能となる。

 私自身も、社会課題の解決への意識から、キャリアを形成してきた経歴がある。公共機関向けITコンサルティングに従事した時代、グローバルソフトウェア会社での公共向けグローバルソリューションの導入を企画推進した時代双方で、我が国の公共サービスのデジタル化、高度化の一端を支援してきた。これらの経験を生かして、「一人一人の多様な幸せを実現するデジタル社会を目指し、世界に誇れる日本の未来を創造する」ために設立されたデジタル庁の立ち上げのタイミングから、非常勤の民間デジタル人材としてこのミッションの達成に向けて勤務しており、同時に、弊社ではデジタルを用いた企業変革などの経営コンサルティングを行っている。

 本稿では、このような私の経験に基づき、企業の在り方と社会課題解決の双方を考えるうえで、とても有用な考え方である「サービスデザイン」を紹介させていただきたい。

「サービスデザイン」は企業の在り方を問う方法論

 日本は戦後、革新的な技術の導入やそれに伴う投資の増加、産業構造の変化によりいわゆる高度経済成長を実現し、物理的には「豊かな社会」となった。しかし、1990年代以降は「失われた30年」とも呼ばれるほど経済の長期低迷を続けている。その間に社会構造は複雑となり、グローバル競争や多様な価値観への適応といった観点も加わった。今日において重視されているのは、社会課題を解決し、本当の意味での「豊かな社会」を作っていく産業政策である。

 企業も、社会のニーズにきめ細かに対応し、事業を継続することが求められるようになってきた。短期的な営利だけでなく、CSR活動を超え、世の中への貢献を経営目標とする企業も多くなっている。欧米企業を中心にESG経営に対する意向が強くなり、新型コロナウイルス感染症を経た今、その傾向は顕著である。

 これらの背景を踏まえ、企業や事業の在り方を問ううえで参考とできる方法論が「サービスデザイン」なのだ。

サービスデザインの価値

 経済産業省では、サービスデザインを「顧客体験のみならず、顧客体験を継続的に実現するための組織と仕組みをデザインすることで新たな価値を創出するための方法論」と定義している。

 多様化した時代において、「社会のニーズ」はサービス提供者側の都合だけでは捉えきれない。そこで大切になるのは、サービスの利用者や消費者といった「顧客」からの観点であり、得られる「体験」を向上させることにある。起きている課題に対して、ルールや条件に照らして対処するのではなく、それに困っている人に着目し、よりよい感情を持てるような体験を提供することが大切なのだ。そして、サービスデザインは「顧客体験」を、いかに組織的に提供し続けていくのかを設計するための方法論である。

 これはビジネス一般だけの話ではなく、社会課題の解決についても同様といえるだろう。社会課題の解決にサービスデザインを用いる際には、下記のような工夫が有用となる。

 ・より広い目線で関与者を定義、分析する

 ・「関与者の行動や考え(カスタマージャーニー)」を起点として業務を定義し、アプローチする対応策を検討する

 ・「フォッグ式消費者行動モデル」などを取り入れ、深層心理に基づく判断、感情ベースの行動に対しても考慮する

 ・さまざまな関係者が協業し、それぞれの優位性を組み合わせる形で対応策を実施する

 これらの工夫を施すことで、社会課題の真因を探り、困難に直面している人に手を差し伸べ、効率性のみでは判断できない将来起こりうるリスクを軽減することが可能となる。

デジタルの貢献

 これらの工夫を効果的に実施するためにも、デジタルデバイスやサービスの活用は欠かせない。人の体験も含めた多様なデータ収集・管理、リアルタイムな情報を取得・共有、さまざまな関係者の協業、トライ・アンド・エラーによる改善サイクルの実施などを効果的に行えるためだ。

 インターネットやモバイルデバイスが普及している今日においては、デジタルの活用はUI/UX改善の前提になっているともいえるだろう。

 AIやクラウド、IoTなどの先進技術がビジネスに活用できる状況では、社会課題の解決においても、状況の可視化・共有に基づく予測と働きかけなど、デジタルの果たす役割は大きくなっている。

 また、提供者にとっては、デジタルを実装する方法論も変わりつつある。かつてのウオーターフォール型ではなく、柔軟かつ迅速な仮説検証をもとにして要求にアジャストさせるアジャイル型のアプローチにより、価値の提供速度・品質を高めることができるようになっている。

加古川市の地域社会での見守り

 ここまで書いてきた、社会課題の解決、サービスデザイン、デジタルといった要素を取り入れた兵庫県加古川市の実践例を紹介しよう。

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