除菌から医療、エネルギーも……日本発の革新技術「MA-T」が生み出す未来

このシステムを活用した製品には除菌・消臭剤、口腔ケア用ジェルのほか、燃料として使用可能なメタノールの生成などにも応用することが可能となった。

» 2023年11月01日 08時11分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 物質の酸化を制御する革新的なシステム「MA-T」(マッチング・トランスフォーメーション・システム)が、幅広い分野で浸透を続けている。このシステムを活用した製品には除菌・消臭剤、口腔ケア用ジェルのほか、燃料として使用可能なメタノールの生成などにも応用することが可能となった。日本の産学が連携して生まれた「国産技術」でもあるMA-Tのメカニズムを採用した製品は、航空会社をはじめ医療機関や自治体などでも活用が始まっているが、認知度不足が課題。国会議員や行政機関などにも周知を図っている。

(アース製薬提供)

新型コロナにも有効性実証

 MA-Tは、二酸化塩素の分解産物である亜塩素酸イオンから、必要な時に必要な量の「水性ラジカル」とよばれる物質を生成させることで、ウイルスの不活化や細菌の除菌を可能にすることができるシステム。「エースネット」(東京)が10年以上の歳月をかけて開発した。

 水性ラジカルは細菌やウイルスに作用することで消費されるが、すぐに亜塩素酸イオンが化学変化することで、新たな水性ラジカルが生まれる。この一連の反応を繰り返すことで、細菌やウイルスが不活化するという。詳細なメカニズムは大阪大によって解明された。

(アース製薬提供)

 MA-Tは人体に影響するガスなども発生しないことから、安全性が極めて高いのも特徴。大阪大では、MA-Tを活用した「要時生成型亜塩素酸イオン水溶液」が新型コロナウイルスを1分間に99.98%以上除菌できることを実証した。

 MA-Tは国産の革新的な技術でありながら、社会実装が進んでいなかった。MA-Tの基本特許を占有しているアース製薬が中心となり、普及などを目的とした「日本MA-T工業会」を令和2年に設立。今年10月末時点で105社、プロ野球の球団や大学など13団体が参画している。

 アース製薬執行役員で、同工業会常務理事を務める桜井克明さんは「MA-Tはホテルや病院、清掃会社などでも活用されているほか、水害後の清掃や除菌対策としても試験的に運用されている」とした上で「MA-Tは引火性がなく、アルコールなどほかの物質に比べても高い安全性があり、将来的には食品工場や病院、消防で使用しているさまざまな除菌剤から代替していく可能性がある」と説明する。

MA-Tを活用した「要時生成型亜塩素酸イオン水溶液」を使い、消毒散布する様子(豊通オールライフ提供)

介護現場での応用も

 MA-Tは除菌・消臭や感染症の制御だけでなく、介護現場やエネルギーなどの分野での応用も期待されている。

 介護現場の口腔ケアで一般的に使用されている口腔ジェルはグリセリンが入っているケースが多く、汚れが固まりやすい。また、防腐剤の成分がアレルギーの原因になるなど、スタッフにも大きな負荷がかかっていた。こうした課題を解決するためMA-Tを活用した口腔ジェルを開発。アース製薬ではすでに商品化している。

 また、MA-Tを活用することで、従来は高温・高圧下でしか不可能だったバイオガスからのメタノール製造が可能になり、クリーンなエネルギーとしても注目されている。

 一方で、課題もある。MA-Tの認知度が不足していることから、工業会では今年6月、国会議員や関係省庁の職員を対象にした説明会を実施した。

 MA-Tのメカニズムなどに詳しい大阪大大学院薬学研究科の井上豪教授は「インフルエンザなどの感染症が国内で流行したときに(MA-Tを活用して)抑え込む社会実験を行うことができれば」と指摘。また、同大学院薬学研究科の安達宏昭教授は「(MA-Tが)まだ新しい技術のため、『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』(薬機法)の制限を受けているのが現状。医薬品としての効果を客観的に示していくことが大事」と話している。(浅野英介)

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