「ジン」ブーム背景に参入障壁の低さと自由度の高さ サントリーが牽引、相次ぐ地方参入 

30年に国内ジン市場を23年比で2.1倍の345億円まで引き上げる計画を示した。こうした動きに呼応するように、近年は地方の小規模蒸留所によるクラフトジン製造への参入も相次ぐ。ブームが広がる背景には何があるのだろうか。

» 2024年02月08日 09時44分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 国内で「ジン」のブームが本格化しそうだ。「翠(すい)ジンソーダ」などで国内ジン市場の拡大を牽引(けんいん)したサントリーは7日、製造する大阪工場(大阪市)に55億円を投じ、2025年までに生産能力を2.6倍にすると発表。30年に国内ジン市場を23年比で2.1倍の450億円まで引き上げる計画を示した。こうした動きに呼応するように、近年は地方の小規模蒸留所によるクラフトジン製造への参入も相次ぐ。ブームが広がる背景には何があるのだろうか。

国内ジン市場を牽引するサントリーのジン商品=7日、東京都渋谷区(西村利也撮影)

数カ月程度で作れる

 ジンは麦やトウモロコシなど穀物を原料とした蒸留酒をベースに、ジュニパーベリー(セイヨウネズの実)というスパイスで香りをつけた洋酒。これに加える果物やハーブ、木材などのボタニカル(風味を生む素材)が、各社が作るジンの個性を生み出し、差別化のポイントとなる。

 大きな特徴は、ウイスキーと異なり長い年月熟成する必要なく、数カ月程度で作れ、ベースとなる蒸留酒の原材料の規定がないことだ。「極端に言えば、ジュニパーベリーさえ使えばジンになる」(都内のバー店主)という。

 各地域の特産などをボタニカルに使うことで特色を強調でき、酒かすなど廃棄される素材を使えば環境を訴えたジンも製造できる。参入障壁の低さと自由度の高さが、小規模蒸留所のジン製造参入を広げた大きな要素となったようだ。

英国ブームが遅れて波及

 とはいえ、なぜここにきてブームが来ているのか。

 先にブームが到来したのは欧州だ。2008年、ジンの本場である英国で約200年ぶりに蒸留免許を取得してジン作りを始めたシップスミス社が大きな話題となり、ロンドンで同社のクラフトジンが爆発的にヒット。この人気が周辺国や米国まで広がり、17年前後に遅れて日本に波及。このブームにサントリーが反応した。

 ただ、日本でのジンの市場は世界に比べるとまだまだ小さい。サントリーによると、23年の世界のジンの市場規模はウイスキーの約16%の大きさだが、日本ではウイスキーの約4%にとどまる。その要因について、サントリーの塚原大輔RLS事業部長は「ホワイトスピリッツ(無色の蒸留酒)だと、日本では焼酎に押され、ジンの浸透が難しかった」と分析する。

起爆剤となった「翠ジンソーダ缶」

 国内のジン市場が急拡大したのは22年で、前年比2.3倍の200億円となった。サントリーのシェアが約57%から約79%へ飛躍しており、「ハイボール、レモンサワーに続く第3のソーダ割り」として同社がこの年に発売した「翠ジンソーダ缶」のヒットが停滞市場を盛り上げる起爆剤となったのは間違いない。

 サントリーは、桜花やせん茶など6つの国産素材を使ったジャパニーズクラフトジン「ROKU〈六〉」(700ミリリットル、4400円)で初めてとなる限定商品の投入やマーケティング、輸出強化を図り、高価格帯カテゴリーでも市場の底上げを狙う。

 ジンブームを引き起こすその手法は、1983年をピークに低迷したウイスキー市場を、炭酸水で割る「ハイボール」で復活させた姿に重なる。

copyright (c) Sankei Digital All rights reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆