保安検査員や乗客の案内スタッフらの人手不足が大きな要因で、関空は人工知能(AI)を活用した手荷物検査や、検査場への自動化ゲート導入など機械化で対応を急いでいる。
訪日外国人客数が回復する中、航空需要が急回復している関西国際空港では、手荷物検査など保安検査での混雑が常態化しつつある。保安検査員や乗客の案内スタッフらの人手不足が大きな要因で、関空は人工知能(AI)を活用した手荷物検査や、検査場への自動化ゲート導入など機械化で対応を急いでいる。2025年大阪・関西万博まで1年余りに迫る中、対策が急がれる。
中華圏の旧正月「春節」でにぎわう2月中旬。関空第1ターミナル国際線の保安検査場前には長蛇の列ができ、男性係員が「ここから40分待ちです」と案内していた。ただ、世界中で長期休暇が重なる年末年始はこれ以上の混雑だったといい、昨年12月のドイツ旅行の際に保安検査で1時間待たされたという奈良県香芝市の男性(66)は「到着前に疲れ果ててしまう」とうんざりした様子だった。
ここ数年の新型コロナウイルス禍で保安検査など空港業務を請け負う民間事業者は採用を絞り、離職者も相次いだ。昨年5月に新型コロナの感染症法上の位置づけが5類へ引き下げられると社会経済活動が活発化し、旅行需要も急速に回復したが、人員確保が追いつかない場合は運航にも支障を来すなど、深刻な事態に陥っている。
事業者は人手確保を急ぐが、採用は難航しているという。関空で保安検査を担う事業者は「50〜60人を予定した新卒採用枠も半分しか埋まらなかった」と明かし、「コロナで仕事がなくなった、という悪いイメージが払拭されておらず、新しい敬遠されがち。離職した人も戻っていない」と嘆く。
関空を運営する関西エアポートは、保安検査を含む関空での空港業務の人員はコロナ前より2割減ったとみる。一方、年末年始の国際線利用客はコロナ前の8割まで回復しており、「人手不足は最大の課題」(山谷佳之社長)と対策に乗り出した。
一環として始めたのが、手荷物のX線検査機で人工知能(AI)を用いる実証実験。X線画像をもとに、刃物やはさみなど持ち込み制限品の有無をAIが判別し、検査員が最終判断を行う。関西エアは「ナイフ1つでも形状が何百、何千とあり、AIのみで完全な判別は難しい。だが、AIに学習を積ませることで検査員を補助できるか探りたい」としている。
X線画像の判別では、検査場から離れた別室で検査員が判別作業を行う実証実験も始めている。多数の人々が行き交い、機械の警告音が鳴り響くなど、保安検査場での作業は集中力がそがれることがあるといい、「落ち着いた環境での作業は精度向上につながると評価を得ている」(関西エア)。環境を整えることで作業負担の軽減を図る試みだ。
現在、第1ターミナルで進む大規模改修では、国際線の保安検査場は1.8倍に拡張され、複数の旅行客が同時にX線検査を受けられるスマートレーンも現在から6台増の22台整備。保安検査を受けられる旅客数が現在の1時間当たり4500人から6千人に増加する。完成は大阪・関西万博開幕直前の令和7年春だ。山谷社長は「人手不足に特効薬はない。知恵を絞り、無駄が生じないよう解決していく」と話した。
空港の人手不足は保安検査だけでなく、カウンターでの受け付けや駐機場周辺での航空機誘導、荷物の積み込みなど、グランドハンドリング(グラハン)と呼ばれる地上支援業務にも及んでいる。政府もさらなる訪日外国人客の増加を見据え、人材確保などの支援に乗り出している。
国土交通省がグラハンの主要事業者61社に実施した調査によると、令和5年4月時点の従業員数はコロナ前と比べ1〜2割減少。保安検査員も2割減の状況だ。
業界では、低水準とされる賃金や長時間労働などが課題となっている。国交省は5年6月、対策を検討する有識者会議の中間取りまとめ案を発表。賃上げなど処遇改善に向けた委託料の引き上げ、労働環境改善、業務効率化が盛り込まれた。
5年度補正予算では休憩室の整備など、職場環境改善策も支援。また、国管理の空港で保安検査員の待遇改善や省人化につながる検査機器の導入費にあてるため、航空会社から徴収する乗客1人当たりの保安料を3月にも値上げする。
国交省航空局の担当者は「採用と離職防止の両輪で対策を進める」と話した。(藤谷茂樹)
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