AIロボットと人間の境界いずれ消える 大阪大大学院・石黒浩教授(ロボット工学)

2025年大阪・関西万博では「いのちを拡(ひろ)げる」をテーマにしたパビリオンを企画している。人間そっくりの姿形をしたアンドロイドロボット、人工知能(AI)を持つロボットを展示の中核にする。

» 2024年03月04日 07時51分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 2025年大阪・関西万博では「いのちを拡(ひろ)げる」をテーマにしたパビリオンを企画している。人間そっくりの姿形をしたアンドロイドロボット、人工知能(AI)を持つロボットを展示の中核にする。人間が技術と融合して「いのち」の可能性を広げる。技術の進化により、人間とロボットの境界はなくなる。「未来は明るい」「もっともっと私たちは発展していくんだ」と感じてもらう。

 人類は火と石器を使い始めた時代から、技術で能力を進化させてきた。衣服や眼鏡、抗生物質も、人間生活を豊かにして繁栄をもたらした。現在もスマートフォンで莫大な情報を瞬時に収集できる。技術と人間は切り離すことができない。技術が人間の能力を拡張する本質は未来も変わらない。

 未来では、AIを頭脳とするロボットが人間と同じような仕事をすることが予想される。「AIが人間を凌駕(りょうが)するのではないか」という懸念をよく聞く。だが、人間は新しい技術が出てくるたびに「仕事を奪われる」と心配しながら、しっかり受け入れ使いこなしてきた。より高度な技術を使うためには人類全体が賢くならなければならない。AIもロボットも良識のある人が設計し使用することが重要である。

 人間は生身の体を持っているから人間であるわけではない。社会がその人を大事だと思ったときに人間になる。この意味で、将来、社会で受け入れられ「人間」として認識されるロボットが生まれるだろう。そのとき大きな役割を果たすのがAIだ。AIはロボットだけでなく、スマートフォンを見れば分かるように人間にも知能を与えている。人間がAIという技術を取り入れ、ロボットも含めて「いのち」を広げていくことは疑いようがない。

 1970年万博ではフジパンのパビリオン「フジパンロボット館」で音楽を演奏するロボットや育児ロボット、海底開発ロボットなど、さまざまなロボットが展示され、来館者を楽しませた。当時と今ではロボットの水準が全然違う。この約50年でロボットはセンサーによる知覚機能、しなやかな運動機能、言語能力や表現力を備え、どんどん人間に近づいてきた。2025年万博では、現在のロボット・AI技術を使いながら「もっと進んだら50年先はどうなるか」をみせたい。

 また、1970年万博当時は、みなが同じ方向を向き、ただ豊かになることだけを考えていた。飛躍的な科学技術の発展を経た今、人間が未来を設計し、人間が人間を進化させなくてはならない。2025年万博では来場者がそれぞれの価値観で、どのような未来をつくらなければならないのか、具体的なイメージを持って帰ってもらうことが最も大切だ。(聞き手 牛島要平)


いしぐろ・ひろし 大阪大大学院博士課程修了。平成21年から現職。国際電気通信基礎技術研究所(ATR、京都府精華町)の石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)なども務める。遠隔操作ロボット「アバター」、人工知能(AI)を搭載したロボットなどを研究し、人間そっくりのロボット「アンドロイド」の分野で第一人者として知られる。滋賀県出身。60歳。

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