官民一体で先端半導体の国産化へ、熊本に続き北海道千歳市でも来年稼働に向け工場建設進む

熊本県に続き、北海道でも半導体工場建設が進んでいる。道内の空の玄関口・新千歳空港の南北に伸びる滑走路と並行する国道36号を隔てた美々地区で、手掛けているのは次世代半導体の量産化を目指す「Rapidus(ラピダス)」。

» 2024年03月06日 09時06分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 熊本県に続き、北海道でも半導体工場建設が進んでいる。道内の空の玄関口・新千歳空港の南北に伸びる滑走路と並行する国道36号を隔てた美々地区で、手掛けているのは次世代半導体の量産化を目指す「Rapidus(ラピダス)」(東京)。回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)という微細な「ロジック半導体」を製造する拠点として令和7年1〜3月期の試作ライン稼働、9年4月の量産開始を計画している。

前例なき次世代拠点

 ラピダスは4年8月、ソニーやトヨタ自動車など国内大手企業8社が出資して設立した。政府の支援とともに米国・IBMやベルギーの半導体研究機関「imec(アイメック)」などと連携。米国やオランダの半導体製造設備会社とも協力体制を敷き、次世代半導体を製造する。今後10年程度で5兆円規模の投資が見込まれている巨大プロジェクトだ。

 建設が進む工場は「IIM」(イーム)と呼ばれ、昨年9月に1棟目が着工した。建築面積は東京ドーム約1.15個分に相当する約5万4000平方メートル。千歳市が選ばれたのは、半導体製造に不可欠な大量の水が確保でき、空港に近接していることで物流環境も良く、再生可能エネルギーが豊富なことも大きい。

 電力を制御したり、変換したりする半導体は暮らしの中にある家電製品やスマートフォンなど多様な製品に搭載されている。

 生成人工知能(AI)や車の自動運転技術の進展などで最先端半導体のニーズはさらに高まる見込み。同社はその需要拡大を見据えて“メードイン北海道”の半導体を世界に送り出す構想。将来的には世界の半導体関連企業や研究開発機関を集めて複合拠点化した「北海道バレー構想」の実現を思い描いている。

受け入れ強化

 ラピダス進出を受けて関連産業の集積も始まっている。米国の半導体製造装置メーカー「ラムリサーチ」や、オランダの半導体製造装置大手「ASML」など、海外からも千歳市内などに拠点を置く意向だ。

 立地する同市は昨年4月、ラピダス対応の「次世代半導体拠点推進室」を新設している。現在は専従15人、兼務20人の合計35人体制。市内の工業団地には100以上の企業から立地に関する相談があるといい、新たな工業団地の造成も検討中だ。周辺自治体の恵庭市や長沼町なども工業団地の造成構想や遊休地売り込み、技術者流入を想定した宅地造成などを見据える。

 昨年9月、千歳市で行われた起工式に岸田文雄首相が「わが国の半導体戦略の中核をなすプロジェクト。千歳市の半導体関連投資や関連産業の集積、地域全体の発展に期待する」とビデオメッセージを届けた。国を挙げた取り組みに地元関係者の期待も大きい。

期待と不安

 人材育成の動きも進んでいる。道内4カ所(旭川、釧路、苫小牧、函館)の工業高等専門学校は4月以降、産学官連携で半導体を学ぶ新科目を立ち上げる。道外流出の多かった理系人材に半導体産業の魅力を伝える狙いがあるからだ。

 道内企業の関心も高い。1月末に札幌市内で開かれた道内企業向け「半導体ビジネスマッチングセミナー」(北海道主催)には、オンライン参加を含め約80社から200人以上が集まった。講演したラピダスの清水敦男専務は、道内企業の取引事例を紹介しながら「当社は常に能力増強を考えている。チャンスはあるので長い目でお付き合いを」とアピール。来場した工場設備メーカーの担当者も「取引につなげたい」と期待感を示した。

 しかし、人材や資源が道央圏に集中することへの不安や、量産開始後の具体的な見通しなど「見えない部分も多く慎重にならざるを得ない」(自治体関係者)との声も上がる。


 熊本県菊陽町内では、半導体受託製造の世界最大手「台湾積体電路製造(TSMC)」の新工場の開所式が24日、開かれた。年内にも本格稼働が始まる予定で、工場を運営するTSMC子会社のJASMに出資するソニーグループの吉田憲一郎会長兼最高経営責任者(CEO)やトヨタ自動車の豊田章男会長も駆け付けた。

 TSMCの進出は地域のインフラ環境を激変させており、用地不足や人材不足、地価の高騰などが起き、「半導体バブル」とまでいわれている。

 今後、国内半導体産業を根付かせるために、政府は補助金政策を続けていく考えで、北海道のラピダス以外にも、広島県や岩手県にある半導体工場への補助金支援を決めている。半導体は地方活性化の起爆剤になるのか、行方に注目が集まっている。(坂本隆浩)

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