少々高度な内容だと、複数要因が絡むことにより複雑性を有した社会構造や流れも存在する。その一つは気候変動対策におけるイデオロギーなどの対立構造だ。気候変動対策への世界のコンセンサスはありつつ、地政学を踏まえた各国のエネルギー政策に見え隠れする思惑、消費者心理などのさまざまな要因を踏まえた上で、事業の方向性を見極める必要がある。
複雑性を有するテーマも構造的に捉え読み説くことで、社会の流れの本質をつかみ確度の高い未来洞察につなげることができる。
また、表層上の発生事象に対して“本質を見極める力”も重要だ。直近の例だと、過熱感のある日経平均株価の上昇であろう。当該事象は“冷たいバブル”とやゆされており、実体経済における企業や国民への経済還元は限定的である。株価高騰の主な要因は、中国経済の停滞による中国マネーの日本市場への流入と過度な円安であり、GDP4位に転落した日本の真の実力ではない。構造とメカニズムを押さえることで、“表層上での見せかけ”においても、本質をつかむことができる。
これまでの日本の産業と経済停滞の主な理由は、潮流により生まれた社会構造に日本の構造が追いついていないからだ。ぜひ、社会の流れの本質を把握する力を身に付けてほしい。
なお、このような重要な能力は、最終的には自社で獲得すべきである。保有していない場合には専門家の採用あるいは外部の専門業者の活用も有用である。当該選定基準は、ロックイン構造を作る業者ではなく、メソッドや知見を惜しみなく提供し、共に汗をかきリスクテイクしてコミットする業者を推奨する。
これまで述べたことを踏まえ、2024年に予測される主な3つの波について言及する。1つ目は常態化された地政学リスクを踏まえた各国・企業の動き、2つ目は米国大統領選挙による影響、3つ目は気候変動時代への適応だ。これらは、冒頭で述べたPEST要素上のベン図で重なるものであり、それだけビジネスを取り巻く環境は複雑性が増しているともいえよう。
1つ目の波である常態化された地政学リスクはもちろん、世界経済、また各社の戦略と事業にも多大な影響を与える。産業勃興や革新的イノベーションには、安全保障も密接に絡んでくることから世界情勢を踏まえた各国の戦略的な動きが活発化する。きな臭い各国の動向が正にそうであろう。宇宙開発、量子コンピューター、半導体、エネルギー、ドローン、再生医療、バイオ・ゲノム、創薬、食料安全、生成AIなどの注目テーマへの影響も必至だ。
故にこれらのテーマは国策との連動型となることである種の制約の力学が働く場合もあるが、予算編成や関連法改正が一気に進むことで先行者利益の享受に加え、面を取る戦略も可能となる。
2つ目は、米国大統領選挙による波だが、2024年“もしトラ”というキーワードで、さまざまな懸念が予測されている。米国金融市場のドル安、株安、債券安のトリプル安、輸入関税導入による物価安定阻害、中国への最恵国待遇撤回、急速な円高、株安のリスクが考えられ、当然、日本企業が事業や産業を興す局面で多大な影響は必至であろう。
故に今正に進めようとしているものが“もしトラ”による政策反転で逆風に転じ減速する可能性があり、逆に保留や撤退候補としていたものが、市場のキャズムを乗り越える可能性もあることから、ゲームチェンジャーの創出にも資する非常に大きな波となり得る。ぜひ日本企業の台頭を望みたい。
3つ目は、気候変動時代への適応の波だ。脱炭素社会の実現に向けた各企業の適応はもはや不可避の最重要課題で、既存あるいは新規事業でも対応すべき前提となる。前提への対応という“単なる守り”に留めるか、“攻めの契機”とするかの分水嶺が存在するが、私は後者を推奨する。自身の業界のスタンダードモデルやシステムを先行構築し、まずは同業界へのサービス展開もあり得よう。面を取る戦略だと、経営資源が豊富なエンタープライズのみが対応可能だが、領域とターゲットを絞り商材にエッジを利かせることで、もちろん、ミッドキャップやベンチャー、スタートアップでも対応が可能となる。
エンタープライズは、まずは競合間でいわゆる“様子見”の戦略をとる傾向もあるため、ぜひこの波に先行的に乗ってほしい。資金要の段となればVCという強力なパートナーがいる。積極的に進めるべきだ。
これまで述べた内容の要諦は、外部環境と内部環境を適切に踏まえたタイミングで事業における各アクションを見極め、社会の流れを把握する能力である構造化を意識的に高め、最終的に自社能力として獲得すべきであるということだ。2024年の3つの波は更なる不確実かつ複雑社会を推し進めつつも、新たな産業やイノベーションを生み出すきっかけになりうる。ぜひ社会の流れを本質的につかむ力を身に付け、これらの波を契機として事業の成功につなげてほしい。
株式会社ベルテクス・パートナーズ 取締役
外資系コンサルティングファーム、事業会社で18年超のコンサルティング、経営企画・事業の立上げ・運営経験を経て現職。コンサルティング事業のオーナーを歴任し、経営基盤の構築および成長のための道筋をつくる。
これまで多岐に渡る業界・事業領域でコンサルティング案件を手がけ、自社事業で培ったノウハウも踏まえた新規事業創出コンサルティングが専門。現在、脱炭素/GXクロスボーダーM&A、グローバルアクセラレーター、歯科医療投資、CxO人材紹介、ベンチャー向けBPO、AI活用型エグゼクティブ向け英会話レッスンなどのサービスを手掛ける。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授