ごみ焼却施設の稼働を人工知能(AI)や遠隔操作を活用して自動化、省力化する取り組みが進められている。日々大量のごみが送られてくる焼却施設は24時間安定して稼働させなければならないが、人手不足に加え、人口減少でコスト削減が必要になるなど課題が多い。
ごみ焼却施設の稼働を人工知能(AI)や遠隔操作を活用して自動化、省力化する取り組みが進められている。日々大量のごみが送られてくる焼却施設は24時間安定して稼働させなければならないが、人手不足に加え、人口減少でコスト削減が必要になるなど課題が多い。将来にわたってごみを処理し続けるには業務の遠隔化はもちろん、AIによる自動化が欠かせない。ただ、自動化は車の自動運転と同様に「安全面での信頼性」の問題から導入が進んでいないのが実情だ。
ごみ焼却施設の建設などを手がけるJFEエンジニアリングは昨年7〜10月、山口県岩国市の清掃工場「サンライズクリーンセンター」で焼却炉を自動運転する実証実験を実施。運転員による手動操作が介在しない完全自動運転を延べ92日間達成した。
ごみ焼却施設では、「ごみの受け入れ」や「ごみを投入するクレーンの操作」「焼却炉の管理」などの業務を作業員が担っている。かつてはごみ焼却施設の稼働は自治体の職員が行っていたが、建設と合わせて運転を民間委託するケースが増えており、現在は全国の8割以上の施設が焼却炉の運転などを民間企業が担っている。
今回、自動化を実証した岩国市の焼却炉の管理は、燃焼状態を見極めてごみの投入速度や空気量をコントロールする必要があり、運転員には熟練の技能が必要となる。
JFEエンジニアリングが開発した自動運転AIシステム「BRA−ING(ブレイング)」は、温度やガスの濃度測定、画像解析などを駆使し、燃焼の自動管理に加え、有害物質を抑える薬剤の投入などを人が判断する以上の精度でコントロールできる。同社環境本部DX推進部の樋口真司運営室長は「ベテランのノウハウの継承や人手不足の解消のために自動化の技術を開発した」と話す。
実際の燃焼炉では管理を経験と勘に基づく職人技に頼っている側面が強く、必然的に長期間にわたって同じ施設に勤める地元採用が中心となる。そのため、他の地域で欠員が出た場合に異動を要請しても断られるケースがあるといい、「地方の施設は人材確保が難しいという課題がある」と樋口氏は説明する。
このAIシステムは同社の既存施設だと1週間かからずに導入できるのが特長で、すでに福井県や長野県などの12施設に導入している。ただ、法律や安全面の問題から完全自動運転は実施しておらず、自治体と相談しながら省力、省人化での活用にとどまっている。
一方、日立造船は複数のごみ焼却施設のクレーンを大阪市の本社から遠隔操作できる仕組みの検証を進めている。クレーンはごみを焼却炉に投入するだけでなく、ピットにたまったごみの偏りや密度を見極めて撹拌(かくはん)する操作も必要で、こちらも熟練の技術が頼りになる。焼却炉の運転と同じく、ベテランの不足が課題となっており、遠隔操作によって各施設の人手不足解消につなげる狙いだ。
本社の遠隔操作設備には6台のモニターが並び、操縦士は左右のレバーを利用して遠く離れた施設のクレーンを操作できる。動作の遅延は0.5秒以下に抑えられており、スムーズな操作が可能という。また日々のクレーンの操作にはすでにAIの画像認識を使った自動操作も導入されており、トラブルなどが起きて手動操作が必要になったときに遠隔操作を活用する方式となる。
日立造船はクレーン操作だけでなく、焼却炉の運転を含めた施設の自動化への取り組みも進めているが、まだ課題も多いという。担当者は「安定に稼働させないといけない施設なので、自動化に不具合があったときに人が対応できるよう人材育成も同時に進めなければならない」と話す。
自治体の職員が運転を担っていたころは、各施設に地元採用の若手から中堅、ベテランがそろい、技術継承が行われていた。しかし業務委託となった現在は、施設の新設に合わせて運転員を募集し、指導のために他の地域からベテランを招くようなケースが多くなっている。
人手不足が深刻化する地方に対し、東京23区では今も自治体職員による施設運営が主流となっている。ただそれでも現在稼働中の20施設のうち8施設は民間企業に運転管理などを委託している。
23区の一般家庭ごみ処理を扱う東京23区清掃一部事務組合の宮崎勇一郎技術課長は、今のところ技術継承ができており人手不足は大きな問題になっていないとした上で、「一時期、コスト削減のために民間委託が進められたこともある。少子高齢化を見据え、将来的に自動化などの取り組みは検討していかないといけない」と強調する。
国内のごみ処理事情に詳しい日本環境衛生センター環境工学第一部の藤原周史部長は「地方を中心に人手不足は以前から問題になっていたが、新型コロナウイルス禍で運転員が出勤できないリスクが顕在化し、遠隔監視や自動化へ向けた取り組みが加速した」と指摘する。
ただ安全上の不安から自治体が積極的に無人化を進めるには至っていないのが現状という。人口減少により地方自治体は行政サービスの質をいかに維持するかが課題となっており、コストや労力の削減は不可欠だ。藤原氏は「AIなどの安全面での検証がさらに進めば自動化は普及していくだろう」と期待している。(桑島浩任)
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