国内事業がメインだった外食大手は、食材の現地調達でコストを抑えられる海外での出店を加速。かたや生産拠点の海外移管を進めてきた製造業では、輸入コストの上昇を抑えるため拠点を国内に回帰する企業が増えた。従来とは異なる逆転の発想で円安の逆風を乗り切ろうとしている。
25日閉幕の先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では日本が歴史的な円安を巡る懸念に言及したが、円安を逆手に取って収益を高める日本企業の動きが広がっている。国内事業がメインだった外食大手は、食材の現地調達でコストを抑えられる海外での出店を加速。かたや生産拠点の海外移管を進めてきた製造業では、輸入コストの上昇を抑えるため拠点を国内に回帰する企業が増えた。従来とは異なる逆転の発想で円安の逆風を乗り切ろうとしている。
外食大手のすかいらーくホールディングス(HD)は15日の令和6年1〜3月期連結決算発表に併せて、9年までに海外で約100店舗を出店する計画を明らかにした。今年4月末時点の77店舗から2倍以上にする。米国のしゃぶしゃぶチェーンが好調で現在の1店舗から50店舗に拡大する。
海外出店に拍車をかけているのが、一時1ドル=160円台まで進んだ円安の影響だ。国内の店舗は輸入食材の調達コストが上昇し、収益を圧迫している。海外で出店する場合、食材は現地調達し、稼いだ外貨で食材を仕入れるため、為替の影響を受けづらい。
焼肉店「牛角」などを展開するコロワイドも、今年3月末時点の海外店舗数は389で、5年前の199店舗から2倍近くに増えた。今後は海外売上高も12年3月末までに今年3月末の約5倍となる1500億円まで伸ばす計画だ。
外食大手が海外出店に積極的なのは人口減少による国内市場の縮小もある。外食大手の担当者は「今後は市場がさらに縮小する。海外に活路を求める流れにあらがうことはできない」と漏らす。
円安は海外進出を進めてきた製造業にも影響を与えている。アイリスオーヤマは中国で生産する国内向けの家電や日用品の一部を日本の工場に移管した。中国から商品を輸入する際の輸送費や原材料価格が高騰したためで、国内回帰を図ることで費用削減に取り組む。
音響機器メーカーのJVCケンウッドも米国で生産していた業務用無線を山形工場(山形県鶴岡市)に移管し、日本から米国へ輸出する形に切り替えた。山形工場はロボットの導入で自動化が進んでおり、製造コストを3割削減できたという。
製造業は米中対立など地政学的リスクの高まりも重なり、サプライチェーン(供給網)の強化を目的に生産の国内回帰が増えた。帝国データバンク情報統括部の石井ヤニサ主任研究員は「最近は中国の景気減速で国内に生産を戻す企業も増えている。歴史的な円安でさらに加速する」と語る。
ただ、国内では深刻な人手不足が物流業界だけでなく製造業も直撃している。石井氏は「雇用の確保が国内回帰の壁になる可能性がある」と指摘している。
(黄金崎元、福田涼太郎)
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