データドリブン経営には標準装備すべき仕組みとデータ活用のための体制づくりが不可欠――ITR浅利浩一氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

DXを推進する多くの企業が、一貫性のあるデータを活用するデータドリブン経営を欠かせざる目標としている。そのためには、決別すべき従来の価値観や、逆に標準装備すべき仕組みもある。

» 2024年06月18日 07時05分 公開
[山下竜大ITmedia]

 アイティメディアが開催したオンラインセミナー「ITmedia DX Summit Vol.20」の基調講演に、アイ・ティ・アール(ITR)プリンシパル・アナリストの浅利浩一氏が登場。「データドリブン経営の実現に向けたビジネス基盤の確立」と題して講演した。

基幹系システムのクラウド化を課題としている企業はこの数年が勝負

アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト 浅利浩一氏

 ITRが毎年実施している「IT投資動向調査」の2001年〜2023年におけるIT投資インデックスの経年変化を見ると、コロナ禍を乗り越えた2021年以降にIT予算は増額傾向が継続し、2006年度に記録した最高値に近づいている。今後さらにIT投資を伸ばしていくためには、ビジネスそのものにデジタルを活用し、DXの推進、システムの近代化、デジタルデータの拡充を実現できる仕組みに変革することが重要になる。

 IT投資動向調査に基づく具体的な強化点について浅利氏は、「全社的なデジタルビジネス戦略の遂行からメタバースのビジネス活用まで、20のテーマでその重要度を調査していますが、現在デジタルビジネスと基幹系システムのクラウド化を両輪にDXが推進されています。特に基幹系システムのクラウド化を課題としている企業は多く、この数年が勝負です。さらに近年増えてきたのが生成AIの分野で、20テーマの重要度指数からみるとまだ下位ですが、今後ますます実施率が高くなると予測しています」と話す。

DX推進と基幹系システムのクラウド化の重視が継続

 生成AIへの期待に関する役職別の調査では、役職が高いほど期待度は高く、役員・事業部長の33%が「極めて有望であり、すぐにでも全社的な活用を進めるべき」と回答し、全ての役職の33%以上が「有望であり、特定の部門やチームにおいては有効に活用できる」と回答している。浅利氏は、「役員・事業部長は、データ活用でこれまでの作業の生産性を劇的に向上させることを期待しています。一方、現場レベルでは、欧州連合(EU)のAI法による規制、困難なROIの算出などの理由から慎重なのが実情です」と話す。

 また2008年以降、毎年調査している日本のERP市場では、クラウド化の推進が如実で、ERPベンダーが毎年新規で販売しているオンプレミスのパッケージ、IaaSのパッケージ、SaaSの3つの分類の調査では、2019年にはクラウドERPが全体の50%を超えている。すでにクラウド化を実践している企業は、SaaSの利点を生かし、自社だけでなくグループ企業、グローバル企業にも展開しはじめている。

 「ただしこの調査は、あくまで新規に刷新されるERPシステムだけで、ERPの周辺にはさまざまなオンプレミスの仕組み、レガシーな仕組みが混在して残っています。2030年ごろまでは、この課題をいかに乗り越えていくかが重要になります。製品が市場投入されてから約30年が経過したERPですが、代替できるものがなく2030年代も主要な選択肢として確実に生き残るでしょう。2010年ごろはパッケージが9割以上で、重要なデータをクラウドに預けていいのかという風潮でしたが、グループやグローバルでデータドリブン経営を推進していくにあたり、SaaSで成果を巻き取っていくことが当たり前になっています」(浅利氏)。

論理的に整合性のとれたデータの基盤を構築して最大限に活用することが必要

 あえて、ITR Reviewの2008年10月号「企業ITアーキテクチャへの取り組み(#R-208101)」を引用し、デジタル化における企業の課題が普遍的であることを示した。同レポートでは、デジタル変革を推進する企業が、一貫性のあるデータを意思決定に活用するデータドリブン経営を重視している一方で、無秩序やガバナンスが欠如したサイロ化したシステムを抱えていることが分かる。

デジタル化における企業の課題は普遍的である

 「新しいシステムはSaaSやクラウド化されていきますが、それが本当にデータドリブン経営を支える基盤になるためには、ビジネス、データ、業務プロセスの整合性がとれた仕組みで、一貫性のあるデータが必要になります。最大の課題は、サイロ化したシステムが多く、ビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジーを活用したインフラで論理的に整合性が取れた状態を実現できていないことです。これは、ビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジーのアーキテクチャがブレなく描けていないためで、アーキテクチャマネジメントを実現するための打ち手が後回しになっています」(浅利氏)

 データを活用するためには、ビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジーを変革しつつ、つなぎ、共有し、活用するという3つのステップを明確に描くことが必要。サイロ化したシステムから脱却し、最適化されたシステムに変革するためには、ユーザーフレンドリーが重要、ユーザーフレンドリーでなければ使ってもらえない、ユーザーフレンドリーでなければ生産性が低下するなど、ユーザーフレンドリーという価値観から決別することも必要になる。

デジタル変革には全社視野で論理的に整合性の取れたアーキテクチャが必要

 「論理的に整合性のとれたデータの基盤を構築し、最大限に活用することを合わせて考えることが必要です。その目標のために、ユーザーフレンドリーは本当に重要なのか、むしろ刷新を機にオペレーション自体をシンプル化し、基本コンセプトそのものを変えていくことも重要です。ユーザーフレンドリーと決別することで、多少生産性が低下しても、全体のスループット、企業としての利益が向上すればよいという考え方で取り組んでみてください」(浅利氏)

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