南海トラフ巨大地震が発生すれば、静岡県内はほぼ全域で甚大な被害が想定され、住民や自治体の地震対策が進む。住宅の耐震化とともにいま注目されているのは、「耐震シェルター」の導入だ。
30年以内に70%以上の確率で発生すると予測されている「南海トラフ巨大地震」。8月には初めて南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表され、太平洋側の広い地域が不安に包まれた。南海トラフ巨大地震が発生すれば、静岡県内はほぼ全域で甚大な被害が想定され、住民や自治体の地震対策が進む。住宅の耐震化とともにいま注目されているのは、「耐震シェルター」の導入だ。
太平洋に面して長い海岸線を有する静岡では南海トラフ巨大地震の発生時、最大30メートルを超える大津波の襲来が予測されている。駿河湾沿いの漁港や海浜公園などを訪ねると、随所に津波避難タワーが目に入る。長らく津波の脅威と闘ってきた歴史がうかがえる。
しかし、恐ろしいのは津波だけではない。津波の前に発生する強い揺れもまた大きな被害を出すことが予想されている。
内閣府が平成24年にまとめた被害想定によれば、震度7が想定される地域は全国で10県151市町村。静岡県内は静岡市や浜松市のほか、島田市や富士市など23市町で震度7となる可能性がある。
焦点の1つは、木造住宅の耐震化だ。静岡市は、市内の木造住宅の耐震化率が令和4年度末で推計93.7%。毎年100件程度の耐震補強工事を助成しており、今年度は耐震診断などを含めた関連費用として当初予算に1億7千万円を盛り込んだ。1月に発生した能登半島地震の影響を踏まえ、前年度の1億700万円から大幅な増額。それでも、蓋を開けると「申請件数が前年度比約3倍に急増した。当初の予定を90件上回る200件分を確保する必要がある」(難波喬司市長)として、木造住宅耐震補強補助金を9千万円増額する方針だ。
課題は、耐震補強の必要性を理解してはいても、費用面や手間の問題で二の足を踏む市民も少なくないことだ。これは全国的な傾向でもあり、耐震化率が比較的高い静岡市も頭を悩ませている。出費の大きさや工事の手間などから耐震補強を嫌う高齢者も多いとみられるが、万一の際に被害を受けやすいのは、そうした高齢者だ。
耐震補強工事に代わり、注目されているのが、「耐震シェルター」や「防災ベッド」と呼ばれているものだ。静岡市には、昭和56年5月末以前の旧耐震基準で建てられた木造住宅に耐震シェルターを設置する補助金がある。このほど補助金の上限額を12万5千円から2倍の25万円に拡大し、補助率も経費の50%から80%に引き上げた。
耐震補強工事は平均額が約249万円と高額だが、耐震シェルターなら40万円台から購入できるものもある。静岡市の建築安全推進課によると「例年は0〜1件程度だった申請も今年は現時点で3件程度あり、問い合わせも増えている」(担当者)という。
市では、一条工務店(東京都江東区)の「木質耐震シェルター」やSUS(静岡市駿河区)の「パネル式耐震シェルター」などのほか、浴室をシェルター化するものなど数種を対象に導入を後押ししている。いずれも家屋内に設置するもので、家屋が倒壊してもシェルター内の安全は保たれる。
島田市はより手厚いシェルターの導入補助に着手している。耐震シェルターの補助の上限を25万円から45万円に、防災ベッドは25万円から44万円にそれぞれ引き上げた。補助率も100%。同市の危機管理課では「住宅の耐震化を進めるのが基本となるものの、費用面などで厳しい場合は耐震シェルターだけでも導入するよう促していく」という。
震災への対応は、「地震大国」である日本にとっては喫緊の課題だ。耐震シェルターの導入は耐震化率の向上には寄与しないが、人的被害の低減には効果が見込まれる。静岡では、安価で現実的な人的被害抑制策となる「耐震シェルターの導入」が新たな選択肢となりつつある。(青山博美)
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