事件発生時に関係者の動きを追跡するよう防犯カメラの画像を集めていく「リレー捜査」が主流となる中、解析の迅速化が期待される。カメラ画像からリアルタイムで不審な行動を検知するなど、犯罪の未然防止にAIを活用する官民の取り組みも進んでいる。
防犯カメラの画像をAI(人工知能)で解析する独自のソフトウエアを警視庁などの警察本部が導入し、実用化を目指している。事件発生時に関係者の動きを追跡するよう防犯カメラの画像を集めていく「リレー捜査」が主流となる中、解析の迅速化が期待される。カメラ画像からリアルタイムで不審な行動を検知するなど、犯罪の未然防止にAIを活用する官民の取り組みも進んでいる。
昨年11月、東京都品川区のマンション内店舗で発生した強盗未遂事件。全国に名手配された指示役とみられる男は、事件当日の夜に千葉県の関係先に立ち寄ったのを最後に一時行方不明となった。
だが、その後の防犯カメラなどの捜査で、関西方面へ逃走したことが判明。追跡捜査の結果、今年2月、現場からおよそ400キロ離れた大阪市内で身柄を確保された。
警察庁のまとめによると、令和5年の重要犯罪8859件のうち、防犯カメラなどの画像が被疑者特定につながったのは1760件で19.86%。強盗事件単独では27.81%を占めた。
ある捜査関係者は、カメラの普及とともに「画質も格段に良くなっている」と説明。近年では、AIの技術も発達しており、画像解析への活用が進む。警察当局はインターネット上で自由に使える複数の「オープンソース」を使い、独自のソフトウエアも開発。全国展開し、捜査の迅速化につなげることを目指している。
防犯カメラに映る「異変」をAIで検知できないか−。民間ではそんな技術開発も進んでいる。
AIを活用した警備システムを開発した「アジラ」(東京都町田市)では、防犯カメラで撮影した画像をリアルタイムで解析し、人の転倒や暴力などを認識するシステムを提供している。
この「行動認識AI」は、LANケーブルが使われているネットワークカメラであればどれでも利用可能。令和4年から全国の商業施設などで導入が始まり、現在は100を超える施設に拡大。一部の鉄道駅でも活用されている。AIが人の骨格などを認識し、転倒などを「違和感」として感知する仕組みで、実際に転倒した人の救急搬送につながったケースもある。
懸念されるプライバシーの問題について、担当者は「骨格のみで顔などは検知されず、AI自体が個人情報をもつことはない」と説明。月に十数万件のデータが集まるため、AIの学習も進み、転倒から5秒ほど動かない場合にのみ通報されるなど、精度も向上しているという。
同社は昨年から、警察庁科学警察研究所とともに、「不審人物」を見抜く新たな技術の研究も行っている。
AIが防犯カメラの映像から、十数秒後の人の骨格の動きを予測し、それにそぐわない動きをする人物を検出する仕組み。研究では、AIが不審人物と判断したものと、カメラの映像を解析する警察官が不審人物としたものの一致率が高いことが判明。こうした最新技術は、犯罪などの前兆を事前に察知できる可能性も秘めている。
一方で、AIで不審人物とされた人物が、実際は忘れ物に気づいて戻っただけだった場合に見分けられないなど、実用化には課題も残る。担当者は「将来的には街角のカメラなどにつなぐことで、犯罪の未然防止などの役に立てれば」と話している。(前島沙紀)
防犯カメラのリレー捜査には、人員や捜査員の勘が求められる。警察のなり手が少ない中で、現在と同じような捜査活動を国民が望むのであれば、AIの活用も一つの選択肢として考えていかなくてはならない。
ただ、どう使うかが重要だ。プライバシーの観点では、AIによるその場での行動検知などには大きな問題はないが、顔認識による行動追跡などについては現在の法的な仕組みで良いのか、検討しなければならない。
また、AIが答えを出すと正しく見えるというバイアスの怖さもある。タクシーのドライブレコーダーの画像などを理由に、警察が犯人とは異なる人物を誤認逮捕した事例もあり、映像の訴求力は高いからこそ慎重に扱う必要がある。
現行のリレー捜査でも、犯人としての合理的な疑惑を超えた捜査は行わないという一線は順守することになっている。AIの活用も、国民の理解を得ながら進めていくことが重要だ。
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明治学院大学 経済学部准教授