官民データ駆使し、新ビジネス生み出せ 人手不足解消と社会変革の鍵は「シビックテック」

国や自治体、企業が公開するオープンデータを民間で活用する動きが広がっている。大阪府が現在開催している企業参加型のプログラムでは、官民のデータを駆使して社会課題の解決に資するビジネスアイデアを競わせ、有力案の実用化を支援する。少子高齢化に伴い労働力不足が加速する日本で、デジタル化による生産性向上は喫緊の課題であり、イノベーション(技術革新)創出にも期待がかかる。

» 2025年08月04日 14時02分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 国や自治体、企業が公開するオープンデータを民間で活用する動きが広がっている。大阪府が現在開催している企業参加型のプログラムでは、官民のデータを駆使して社会課題の解決に資するビジネスアイデアを競わせ、有力案の実用化を支援する。少子高齢化に伴い労働力不足が加速する日本で、デジタル化による生産性向上は喫緊の課題であり、イノベーション(技術革新)創出にも期待がかかる。

大阪府のプログラムに提供するデータについて説明する日本国際博覧会協会の担当者=6月、大阪市都島区

 政府が6月に閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、人工知能(AI)など「デジタル技術の実装により社会変革を進め、新ビジネスや付加価値の創出につなげることで、デジタル競争力を強化する」と強調している。

大阪府が企業支援

 オープンデータ活用もこうした方針の一環で、大阪府は実践型プログラム「OSAKAイノベーションデータラボ」を6〜9月の日程で開催している。

 プログラムは、観光や防災、交通などの課題解決に貢献するビジネスモデルを考案して実現可能性を競うコースと、生成AIを使ってアプリなどの情報サービスを開発するコースがある。参加企業・団体は自治体や民間から提供されるオープンデータを活用し、9月の中間審査と最終審査でアイデアを売り込む。優秀提案は令和7年度中のサービス実装に向けて行政の支援を受けられる。

 中間審査に進んだ15チームのうち、NPO法人「部活動リノベクエストLabo」(大阪府箕面市)は中学校部活動の地域移行に取り組み、予約手続きが異なる運動施設などのシステム統合を目指す。指導者とのマッチングシステム提供や生徒自身による部活動運営への支援も検討中で、藤田晋太郎理事長は「プログラムに参加し、テック企業との関係を深めたい」と語った。

万博協会も一部公開

 誰もが利用可能なオープンデータは米国で活用の動きが広がり、国内では平成23年の東日本大震災を機に、災害や復旧に関する情報公開の重要性が認識された。

 28年施行の官民データ活用推進基本法は、社会課題に対応するため、国や自治体にデータ提供を義務付けた。すでに全都道府県が何らかの形で公開しており、市区町村も今年2月時点で8割以上がデータを利用できるようにしている。

 大阪府のプログラムで提供されるオープンデータは、府内の観光施設や文化財の一覧のほか、不動産住宅情報サイトの物件情報、匿名化された個人の健康情報などさまざま。公的データだけでなく、民間からも提供を受けることで提供側と参加者との交流を生み、ビジネス機会の創出を狙う。

 大阪・関西万博を運営する日本国際博覧会協会も協力し、入場券の売り上げ枚数や来場者実績、会場周辺の人流などに関する一部のデータを限定公開。協会担当者は「データを会場外や広域の課題にも活用し、新しいアイデアを生み出してほしい」と期待する。

専門人材の育成課題

 行政の公開情報を活用してもらうため、東京都では令和3年度から民間参加のプログラムを開き、都民に役立つサービス開発を支援。北海道や広島県などのほか、市町村レベルでも同様の取り組みが広がっている。一方でデジタル人材の育成や情報セキュリティー対策などが課題だ。

 新型コロナウイルス禍では、台湾政府が公開したマスクの在庫状況をもとに入手可能な場所を示した地図アプリを民間の技術者が開発。社会課題の解決を目指すこうした取り組みは「シビックテック」と呼ばれ、データ活用の機運は高まっている。

 大阪府スマートシティ戦略部の市瀬英夫部長はプログラムのオープニングイベントで「既成概念にとらわれない斬新な発想で地域の課題を解決し、大阪や日本の未来を豊かにするイノベーションを生み出してほしい」と呼びかけた。

デジタル化「適応できず」4割弱

 公共財であるオープンデータの活用は、デジタル技術を駆使して成長につなげる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の実現に不可欠といえ、政府も重視する。ただ、デジタル庁の調査によると、社会のデジタル化に「適応できていない」と答える層が4割近くに上り、不安解消が急務だ。

 デジタル庁は昨年7月、インターネットを通じ全国の18〜79歳を対象に「社会のデジタル化やデジタル行政サービスに関する意識調査」を行った。有効回答数は1万。

 調査によると、社会のデジタル化について「良いと思う」は50.9%に上る一方、デジタル化に適応できているかとの質問には37.6%が「ついていけていない」と答えた。「ついていけていない」の年代別回答は男女ともに70代が最多で、男性34.9%、女性53.3%。一方「ついていけている」の回答は、男性では18〜29歳(46.3%)に次いで70代(35.3%)が多かった。

 デジタル行政サービスに「満足している」は29.8%にとどまった。政府もデジタル社会の実現に向けた重点計画で「デジタル化への不安」を課題の一つに挙げており、「『行政サービスは使いにくい』という既成概念を払拭し、デジタル化について卓越した利便性を実感できる分野を着実に増やすことが必要」としている。(山本考志、清宮真一)

提供側にも工夫や想像力必要

庄司昌彦・武蔵大教授(情報社会学)の話

武蔵大教授の庄司昌彦氏

 公金で整備された行政のデータは一種の公共財であり、自治体が使うだけでなく、広く開放することが重要だ。衛星利用測位システム(GPS)や気象データは民間に開放され多様なサービスが生まれた。災害時には企業やボランティアが復旧・支援活動にデータを生かすこともできる。

 特定の団体にデータを提供するのでなく、大阪府のプログラムのようにオープンな形で公開し、アイデアを募るほうが予想外の技術革新につながる可能性が高まるが、単発の取り組みでうまくいくほど簡単ではない。東京都のプログラムは回を重ねることで参加チームが増え、競争が激しくなり年々アイデアのレベルが高まっている。地道に続けて成長の土壌を育てることが大事だ。

 行政が保有する情報には個人にひも付かない気象や交通、人流などの「環境データ」が大量にあるが、活用しきれていない。提供する行政の側にも、うまく活用してもらうための工夫や想像力が求められている。(聞き手 山本考志)

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