キーエンス出身CEOが語るシン・マーケットイン型付加価値組織への転換方法ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

ファクトリー・オートメーション(FA)の総合メーカーとして、また高い利益率を誇り、高年収企業としても知られるキーエンス。顧客のニーズを取り込んだ多くの世界初・業界初の製品を世に送り出しているキーエンスが付加価値を生み出している理由を、キーエンス出身のカクシンCEOの田尻望氏が語る。

» 2025年08月19日 07時09分 公開
[松弥々子ITmedia]

驚異的な収益力を誇るキーエンスの実力

『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(Amazon)

 ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会にカクシンCEOの田尻望氏が登壇。キーエンスにてコンサルティングエンジニアとして従事した後、2017年に 現在の株式会社カクシンを立ち上げ付加価値コンサルタントとしてカクシンメソッドを世界へ発信している。この田尻氏が「キーエンスに学ぶ シン・マーケットイン型付加価値組織へ転換 〜生成AIを使ってさらなる飛躍的変化を〜」というテーマで講演した。

付加価値創造と差別化戦略を一気通貫で実施するキーエンスの驚異的な数字

 キーエンスは単体3,205人連結従業員数:12,261人の社員数で、2024年度には売上高1兆591億円、営業利益5,498億円、営業利益率51.9%(業界平均の10倍)で、工場を持たないファブレスメーカー(製造を外部委託し、開発・販売に特化する企業)でありながら、この驚異的な数字を実現している。BtoBのマーケティングが非常に上手で、このキーエンスの営業利益の秘訣は、付加価値戦略と差別化戦略にあると田尻氏は語る。

付加価値創造と差別化戦略の一気通貫

カクシンCEO 田尻望氏

 キーエンスの営業利益の秘訣は、「お客様の役に立つ」ための付加価値戦略と、「他社との違いを明確にする」差別化戦略を全社員が一気通貫に実行できていることにある。これら戦略の意味は、買い手となる取引先企業が感じるもので、売り手である自社だけが分かっていても意味がない。買い手にとって重要なのは、製品のスペックではなく、その製品が買い手企業にもたらす付加価値なのだ。

 「弊社の製品にはこの機能があり、これが御社の〇〇という部署の〇〇という作業における生産性を◯◯%上げ、効率がこれだけ下がります。結果的に年間のコストがこれだけ下がります。と、お客様のビジネスモデルで起こる付加価値を説明できて、やっと買い手の心を動かし始めることができます。一般企業でこれができるのは、トップセールスの1割から2割でしょうか。しかしキーエンスで、商品企画、マーケティング、営業企画、営業に至るまで、この説明ができないひとがいるとは思えません」(田尻氏)

 また、業務効率化も重視されており、最小の資本と人で、仕事を進めることが常に考えられている。その効率化の中には、成約までのアポイント数までも含まれ、買っていただくまでの道のりを、しっかりと売り手側が準備をして的確な提案を重ねていく。そのため少ないアポイント回数で効率的に営業利益を上げることができるのだ。

シン・マーケットイン」とは何か

 「キーエンスでは、自社が作りたい製品を開発するのではなく、お客様の潜在ニーズに沿った製品を開発するために組織が動いているように見えます。そして潜在ニーズを汲み取って製品化するため、新製品の70%は“世界初”“業界初”の製品なのです。キーエンスが驚異的なのは、従来の“マーケット・イン”とは違う、“シン・マーケットイン”です。そのすごさは、高付加価値かつ汎用性のある標準型、かつ世界初や業界初というカテゴリーキラーの製品を新たに生み出してマーケットを作り出していくという点なのです」(田尻氏)

 キーエンスには「最小の資本と人で、最大の付加価値をあげる。」という経営理念がある。つまり、世にないものを開発し、圧倒的なコンサルティングセールスでお客様にできる限りの付加価値を提供するということを、理念として掲げているのだ。

付加価値を高め高収益を上げるキーエンス

 この付加価値を作り出す仕組みが、キーエンスではフレームワーク化されている。顧客企業が期待する顕在ニーズに加え、顧客企業も気づいていない潜在ニーズ、さらに業界初・世界初といったまだ作られていない付加価値を新創造することで、ニーズの裏にあるニーズまでかなえることができるのだ。

 さらにキーエンスでは、顧客企業の望んでいないオーバースペックな機能はムダなものとされ、開発してはいけないとされるという。顧客企業の望んでいないオーバースペックを達成するために、開発コスト、製造原価、マーケティングコストが必要となり、さらに既存商品が売れたであろう売り上げの損失が起きてしまう。もしこの製品が失敗した場合、実は大きなマイナスにつながってしまう。そのため、「最小の資本と人で、最大の付加価値をあげる。」という理念を持つキーエンスでは、ムダな機能の搭載は厳しくフィルタリングされているのだ。

「キーエンスには企画から開発に移るまでにそれが本当に顧客のニーズに合致しているかを精査する高い障壁があるのです。そうやって、失敗しない新製品ができあがっていくため、高付加価値の、標準化された新製品が生み出されていくのです」(田尻氏)

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