灰皿を投げられ、経営者の言葉を繰り始めたベンダーフリーの守護神 - タニウム 楢原氏セキュリティ・パートナーの流儀(1/2 ページ)

トレンドマイクロ、シスコ、VMwareを渡り歩き、IT全般のセキュリティをフォローするタニウムの楢原盛史氏。ベンダーの枠を超えて経営層から頼られる「セキュリティ・コンシェルジュ」の流儀とは。

» 2026年01月29日 08時00分 公開
[星原康一ITmedia]

 トレンドマイクロで「エンドポイント」を、シスコシステムズで「ネットワーク」を、そしてVMwareで「仮想基盤(クラウド)」を――。ITインフラを構成する主要レイヤーについて提供する側で学んできた稀有なキャリアを持つ人物が、タニウム合同会社でチーフITアーキテクトを務める楢原盛史氏だ。

 彼はタニウムのエバンジェリストとして活動する傍ら、副業で自身の会社を持ち「セキュリティ・コンシェルジュ」としても奔走している。数多くのCISOや経営層から「ちょっと楢原さん、相談乗ってよ」と個人的な連絡が絶えない。

 なぜ彼は、ベンダーの垣根を超えてこれほどまでに頼られるのか。その背景には、特定領域に縛られない「全体俯瞰の視点」と、泥臭いまでの「現場感」があった。



楢原盛史(NARAHARA Morifumi)

――タニウム Chief IT Architect

楢原盛史 Photo by 山田井ユウキ

 トレンドマイクロ、シスコシステムズ、ヴイエムウェアを経て、現在はタニウム合同会社チーフITアーキテクト。エンドポイントからネットワーク、仮想基盤(クラウド)までIT全領域のセキュリティに精通する。セキュリティ・コンシェルジュとして企業の相談役も務めるほか、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の十大脅威の選考メンバー、デジタル庁の次世代セキュリティ・アーキテクチャ検討会の委員も歴任。著書に『サステナブル サイバーセキュリティ』がある。CISSP、公認情報システム監査人(CISA)。



幅広いIT知識と人脈を活かし、他のセキュリティ企業も進んで紹介

 楢原氏のキャリアの特異性は、ITインフラの「点」ではなく「面」を知っていることにある。エンドポイント、ネットワーク、仮想化(クラウド)という異なるレイヤーを経験したことで、システム全体を俯瞰してセキュリティを語れるのが最大の強みだ。

 「セキュリティは2000年頃からずっと軸をぶらしていません。ただ、さまざまなベンダーを経験したことで、お客様の課題に対して客観的な判断ができるようになりました」

 その客観性は、徹底した「顧客ファースト」の姿勢に表れている。自社のツール(Tanium) が顧客の課題解決に最適であればもちろん提案するが、そうでなければ「ここは僕らではできないから、違う会社を紹介します」とはっきり伝える。自社の売り上げよりも、顧客の課題解決を優先するスタンスだ。

 「ギブアンドテイク」の精神も彼の信条の一つだ。有益な情報は惜しみなく提供し、自身の利益を優先しない。その誠実さが、「外資系ITセキュリティ企業の社長の8割と顔見知り」という、強固なネットワークを築き上げている。

 「例えば、あるお客様でインシデントが起きたとします。そうすると、知り合いの経営層から『どうすればいい?』と個人的に連絡が来るんです。状況を聞いて、『そのレベルならA社がいい』と推奨し、裏でA社の社長に『これから連絡いくから優先対応してあげて』と繋ぐこともあります」

楢原盛史 Photo by 山田井ユウキ

 土日や夜間であっても、相談があれば「即レス」で対応する。この圧倒的な人間力と面倒見の良さが、彼を単なる「メーカーの人」ではなく、頼れる「コンシェルジュ」にしている所以だ。

投げられたガラス製灰皿で経営者の孤独を知る

 なぜ、そこまで顧客に寄り添えるのか。その原点は、約15年前に経験したある「修羅場」にある。

 当時、ある企業で大規模なセキュリティ事案が発生し、メーカーの立場から技術面をフォローするために対策会議に同席した時のことだ。

 「当時はまだ役員室でタバコが吸えた時代で、ガラス製の灰皿があったんです。事態の収束が見えない中、苛立った役員の方がその灰皿をこちらに投げたんですよ。『お前何やってんだ!』と言いながら。私には当たりませんでしたが(笑)」

 その企業は、実は、導入企業ではなく、単にお付き合いがあっただけの関係性だったという。楢原氏は言わばボランティアとして参加し、良かれと思って説明した結果があわや流血騒ぎに。「大企業のトップともなると、一般社員の顔までわからないでしょうから、私をセキュリティ担当者だと思ったんでしょうね(笑)」と楢原氏。

 完全なるとばっちりだったが、楢原氏はこの経験で経営者の「孤独」と「思い」を理解する。

 「経営者が求めているのは、ツールの機能や技術的な解説ではありません。『事業を止めるべきなのか』『いつ再開できるのか』『対外的にどう説明責任を果たせばよいのか』という、ギリギリのビジネス判断に必要な材料なんです。社員を守るために、お客様に迷惑をかけないために、誰よりも必死に考えているんですね」

楢原盛史 Photo by 山田井ユウキ

 経営層が最もフラストレーションを感じるのは、現場から上がってくる情報があやふやであることだ。システムは止まっているのに、まともな情報が上がってこないことが、「これでどう判断しろと言うんだ」という怒りに繋がる。

 「あの時、背筋が凍る思いをしました。サイバーセキュリティは、かっこいいことを言って売るような商売じゃない。お客様の事業継続を支えるために、実態が分からないと何も始まらないんだと痛感しました」

 この経験が、「ファクト」と「数値化」に徹底してこだわる現在のスタイルを決定づけた。

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