現在、楢原氏が心掛けているのが、経営層とIT・セキュリティ現場の間にある「言葉の壁」を取り払うことだ。
「経営側と現場側では、話している言語(プロトコル)が全く違います。現場は『EDR』だ『ゼロトラスト』だと技術用語で語りますが、経営層には響かない。逆に経営層は『ビジネスインパクト』や『説明責任』を問いますが、現場はその感覚がなんとなくしか分からない」
このギャップを埋めるため、彼は「翻訳者」となる。難しい専門用語を使わず、「防災・減災」の考え方や、経営リスクの指標としてセキュリティを語る。
タニウムのアーキテクトとして実施しているワークショップでは、ポストイットを使って現状の課題を洗い出し、「資産管理」や「衛生管理(サイバーハイジーン)」といった足元の状況を可視化していく。
「昨年のアサヒグループホールディングスやアスクルの事案以降、経営者の意識は大きく変わりました。『ランサムウェア』や『シャドーIT』といった言葉も彼らから出るようになりましたが、本質的な対策のためには、まず自社の『ファクト』を共通言語にする必要があります」
2024年に出版した書籍も、印税や名声のためではない。顧客から得た知見を整理し、「経営者が最低限理解すべきこと」をまとめることで、現場と経営の橋渡しをするためのツールとして執筆したものだ。
最後に、これからのセキュリティについて楢原氏に尋ねた。彼が危惧するのは、急速に普及するAIとセキュリティのバランスだ。
「今のAI活用は『ブレーキのない車のアクセルを全開で踏み込んでいる』状態に近いです。2026年に向けてAIは間違いなくトレンドになりますが、だからこそ、それを制御するための『足元の可視化』がより重要になります」
そして、すべてのリーダーに向けてこうアドバイスを送る。
「不安だからといって、闇雲にサイバー保険に入ったり、新しいツールを買ったりする前に、まずは足元を整えましょう。自社の現状を数値化・定量化できていないのに、投資判断はできません。『安全宣言』を出すにしても、何を根拠に安全と言うのか。そのファクトを出せる準備ができているかが勝負です」
楢原氏は、かつてヤマダ電機で山積みになっていた「赤い箱(ウイルスバスター)」を見て、「これは儲かる」と直感でセキュリティの世界に飛び込んだという。あれから20年以上、エンドポイントからクラウドまで全領域を知り尽くした彼は、自らを「セキュリティバカ」と笑う。
しかし、その笑顔の裏には、「お客様を誰一人取り残さない」という強い覚悟がある。
経営判断に迷った時、現場との会話が噛み合わない時、「とりあえずアイツに聞いてみよう」と思えるパートナーがいることは、企業にとって何よりの安心材料かもしれない。
「人に配慮した、厳しくも前向きなセキュリティ環境づくり」 - ライフネット生命 竹山氏
「CISOの役割は、緩める責任を負うこと」 - freee CISO茂岩氏
「技術を知らなければ、適切なリスクは取れない」 - マネーフォワードCISO松久氏
「経営を動かす説明力を鍛えつつ、今も自らログ解析」 - みんなの銀行CISO二宮氏
「迷ったら前へ!」ホワイトハウスにも突撃するCISO - NTT横浜氏
「AIは活かすが任せきらない意識が大切」 - イー・ガーディアンCISO徳丸氏
「永遠に教科書にならない挑戦を楽しむ」 - メルカリCISO・市原氏Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授