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» 2008年12月19日 08時00分 UPDATE

加速するグローバル人材戦略:【第2回】基本理念が企業の存続危機を救った (1/3)

グローバル展開する企業において、その指針でありよりどころになるのが基本理念である。1990年代前半、経営の危機にひんしていたIBMは企業理念を再構築することで復活を遂げた。

[岩下仁(Value Associates Inc),ITmedia]

 前回はグローバル経営の大目標とその構成要素に分解し、経営のあり方を俯瞰した。今回から数回にわたり、グローバル経営の各構成要素について述べていきたい。

 第2回は、グローバル経営におけるピラミッド構造の最上位層に位置付けられ、組織のよりどころたる基本理念について考察したい。

世界規模組織のよりどころ

 グローバル事業における経営課題は、法規制への対応から各市場ニーズへの適応、現地経営陣との調整や統制など多岐にわたる。とはいえグローバル化の課題の中でも、進出先の国や地域の法規制、流通システムへの対応は、比較的分かりやすく、対応もしやすい。例えば外資系食品製造業が日本市場へ参入するためには、農林水産省のJAS規格に対応する必要がある。逆に日本企業が米国市場参入や米国株式市場の上場を狙うのであれば米国SOX法(サーベインス・オクスレー法)に対応する必要があるし、米国で工場を設立し運営するのであれば、米国大気浄化法(Clean Air Act)に対応しなければならない。

 より世界規模で事業を展開するには、これら法規制や地域の嗜好に対応するのみならず、人材のグローバル化が経営課題となる。その際に組織の指針ともなるべきよりどころが基本理念である。法規制対応とは異なり、自社理念の浸透という個別の動きが求められる。

基本理念の構造

 では具体的に組織のよりどころとなる理念とは、どのようなものであろうか。ここでは関連する概念を、大きく基本理念として述べたい。基本理念とは、組織が社会において存在する目的や理由であり、使命(ミッション)と価値観(コアバリュー)、および将来像(ビジョン)に分解される。今現在の存在意義を語る使命や価値観に対して、将来像とは将来達成すべき目標となる。これらの要素は、異なる3つの視点から内容が策定される。顧客・市場の視点、製品・技術の視点、従業員・社会の視点である。図で示すと以下のような形になる。

基本理念の構造と視点 基本理念の構造と視点

 使命と価値観とは、時が経っても変わることのない存在意義となる。例えば、米Googleが掲げている使命とは、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」であり、恐らく今後何十年も変わることがないだろう。この使命は、自社技術の視点から定義されており、「アクセスできて使えるようにする」ための技術革新が狙いである。米Googleの「最高に甘んじない」という価値観も、弛まざる技術革新を想定しているが、そこに市場・顧客の視点は存在していない。

 そのほか、米Johnson&Johnsonの強い使命であり価値観でもある「我が信条」(Our Credo)では、ステークホルダー(顧客、全社員、地域社会、株主)ごとに4つの責任を掲げている。ここでは主に患者、医師、看護婦が「顧客」とする視点に重きを置かれており、技術革新の視点ではない。「我が信条」は1943年に起草以来、数回の改訂を経て60年以上も生き続けている。

 従業員の視点による理念を真っ先に掲げたのはかつてのIBMである。トーマス・ワトソンの息子であるワトソンJr.が1962年に作成した「基本的信条」(Basic Brief)には、はじめに「個人の尊重」(Respect for the Individual)が記されていた。もっともその後経営危機に陥り、1993年にCEO(最高経営責任者)になったルー・ガースナーにより基本理念の再構築が図られている。

 使命や価値観が現在のあるべき姿だとすると、5〜10年先を見越した将来のあるべき姿が将来像である。将来像とは、使命を価値観に沿って実現するための中長期的な目標(指標)であり、マイルストーンでもある。例えばソニーは、設立50周年にあたる1996年、「リ・ジェネレーション」(第二創業)と「デジタル・ドリーム・キッズ」を将来像に掲げ、エレクトロニクスとエンタテインメントを融合させることを将来像とした。これはアナログからデジタル技術への移行、衛星放送やCATV、インターネットによる情報通信技術の発展など、当時の環境変化を踏まえている。同様にNECにおいては、1977年に「コンピュータ技術と通信技術の融合」を唱え、「C&C宣言」(Computer & Communication)という将来像を掲げた。「21世紀のはじめには誰でも、いつでも、どこでも顔を見ながら話ができるようになる」という理想であり、この将来像に向かって事業の舵を切る宣言でもあった。

 実際に各社の基本理念を見てみると、各社各様でありさまざまな言葉で定義されている。一見すると現在と未来、目標と目的が混在して分かりにくいものもある。基本理念の中に将来像が入る企業もあれば、そうでない企業もある。使命や価値観に関しては、社訓社是、哲学(フィロソフィー)、原則(プリンシプル)、信条・信念、精神(スピリッツ)、ウェイ、スローガン、遺伝子(DNA)などの用語にも表される。メディア界の重鎮企業である電通に至っては「鬼の十訓」が価値観となる。基本理念に正解は存在しない。要はどれだけ基本理念が組織に強く根付いているのか否かである。

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