連載
» 2009年06月23日 11時27分 UPDATE

ミドルが経営を変える:【第22回】地下鉄の落書き消しがもたらす効果とは (2/2)

[吉村典久(和歌山大学),ITmedia]
前のページへ 1|2       

地下鉄の落書き消し

 チリひとつ落ちていない道路とポイ捨てゴミだらけの道路。ポイ捨てする人が多くなるのはどちらか。結論は明らかだろう。ポイ捨てがポイ捨てを生む。そうした悪循環を防ぐために、小さな綻びの段階で手を打っておく、それが地域の警察の重要な仕事であるとの指摘がなされている。これを実際に行ったのが、1994年にニューヨーク市長に選出されたルドルフ・ジュリアーニだった。彼はニューヨークを襲った無差別テロへの対応や大統領選挙への出馬などで有名な政治家である。「犯罪の街、ニューヨーク」を「家族連れにも安心な街、ニューヨーク」に変貌させる道筋をつけたことでも名をはせた。

 ニューヨーク地区連邦検事という仰々しい肩書きの職業から市長に転じたジュリアーニだったが、就任後に取り組んだのは「地下鉄の落書き」の一掃だった。これは当初、バッシングの対象となった。いきなり重大犯罪の防止対策に手をつけられなかったため、ジュリアーニは弱腰だとやゆされてしまった。しかしながら、ジュリアーニと彼をサポートした警察幹部には信念があった。小さな犯罪を徹底的に排除していくことで、ニューヨークではどんなに小さな犯罪であれ容赦なく罰せられるとのシグナルを送り、それが安全な街作りにつながるということだ。

 初めは馬鹿にされた取り組みだったが、彼の信念は実を結ぶこととなる。数年間のうちに殺人、暴行、強盗といった凶悪な犯罪の数が激減したのだ。地下鉄の落書き対策が大きな成果を生んだのである。

些細な作業が企業経営に与える影響

 ヒヤリ・ハット、あるいは1つの割れ窓。それ自体は小さな問題である。しかし、そこからの「負」の波及効果には目を光らさなければならない。経営学の研究の世界を見回すと、戦略立案におけるResource- based ViewあるいはPositioning Approach、それぞれの活用方法といった派手な研究に加えて、一見すると「小さなこと」、「些細なこと」が企業経営に与える重要性に注目した研究が登場してきている。そうした研究では、ヒヤリ・ハットなど小さな問題を見逃すべきではないという主張とともに、企業経営の本筋とは関係のなさそうな社内での些細な作業――その代表が「掃除」――が持つ役割に注目した研究も見られる。小さなことの「正」の波及効果についてだ。

 次回以降は、企業経営における「小さなこと」が持つ役割を詳しく論じていこう。





著者プロフィール

middle_pro100.jpg

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。



前のページへ 1|2       

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

「ITmedia エグゼクティブ」新規入会キャンペーン実施中!!  旅行券(5万円)をプレゼント!

「ITmedia エグゼクティブ」は上場企業および上場相当企業の課長職以上の方が約5500人参加している無料の会員制サービスです。
 会員の皆さまにご参加いただけるセミナーや勉強会などを通じた会員間の交流から「企業のあるべき姿」「企業の変革をつかさどるリーダーとしての役割」などを多角的に探っていきます。
 新規でご入会いただいた方の中から抽選でお1人さまに、JTB旅行券(5万円)をプレゼントします。初秋の旅で、日頃の疲れをいやしていただければと選びました。どうぞご応募ください。

ピックアップコンテンツ

- PR -
世界基準と日本品質を極める Clients First with Innovation & Japan Quality

アドバイザリーボード

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆