組織改革を目指すリーダーがなすべきことは、簡単なことから始まる。まず朝の会議やスタッフミーティングを見直そう。予定の共有、進捗確認に終始する無味乾燥なものから、日常の気になったことを話す、対話重視のものに変えるのだ。
今回はリーダーにとっての大きなテーマである「ナビゲーター」、いかに組織を引っ張って目標へ導くか、について考える最終回だ。前回、前々回は、「針路設定者」と「変革のパイロット」の役割について検討した。平時の時も、変革の起こる戦時の時にも、リーダーは、みなのベクトルを合わせ、聞いていないとブツブツ言う人を減らし、また、あらぬ方向を向いているシニカルなメンバーも巻き込んで、ゴールへ向かわせる役割だ。その要諦は、いかにリーダーが社員と結びつきを強め、社員に当事者意識を持ってもらうかだった。
今回は、当事者意識を持ってもらい行動を起こしてもらう時に、もう1つ重要なこと、すなわちチーム力の発揮を検討したい。組織の課題はリーダーが1人でやるものでもないし、社員がバラバラにやるものでもない。社員が結びつき、チームで知恵を出し合っていく必要がある。そんなリーダーの役割を「ネットワーク推進者」という。今回のテーマがこれだ。
従業員同士が結びつくようにするためには、まず従業員同士が語り合うことが必要であり、トップやリーダーがそれに耳を傾けることが必要だ。それゆえ、ネットワーク推進者としては、ボトムアップコミュニケーションの風土作りをどう進めるかがカギとなる。日本の職場は欧米と違ってボトムアップコミュニケーションが得意だと言われてきた。しかし、われわれの職場で、十分満足なボトムアップコミュニケーションはできているだろうか? 社員は言いたいことを上司や経営陣に伝え、彼らもそれを聞いて反応しているだろうか? 現場の情報をトップは十分理解し適切な意思決定をしているだろうか? コーチングが大事だと企業が熱心に取り組んでいることは何を意味しているのだろうか? さらに言えば、コーチングの研修を受けたが結局何も変わらないという多くの声は何を意味しているのだろうか?
管理職やリーダーはもちろん、職場でもすでにボトムアップコミュニケーションのやり方やそのメリットをとうに忘れているようだ。現実の職場では日常のあいさつすらまともにない組織も多い。むしろ、米国のリーダーたちの方が熱心に部下の言うことに耳を傾ける姿の方が目立つのではないだろうか。Googleの熱気あふれる職場にあこがれてしまう。日常の現場レベルのコミュニケーションの場、トップとつながるコミュニケーションの場がどんどん失われている。そしてそのような議論の場は自然発生的に起こることはない。そうなると、個人にたまった知は滞留し、組織力にはならないし、トップは現場と遊離した意思決定を下すようになる。
そこでリーダーは、人々をつなげ、語らせ、それを吸い上げる場を意図的に作り出さねばならない。そんな場づくりで有名なのがGEのワークアウトセッションであるが、もっと身近なレベルでは、キヤノン電子の坂巻社長が実行した「あいさつ運動」もそうだ。坂巻社長によると、あいさつもしない風土では、個々人の会話もない。そうなると個々人が持っている問題意識やいいアイデアは共有されない。だから、まずあいさつをする明るい風土作りが重要なのだという。まったくそのとおりだ。なんだそんなことか、と安易に考えるなかれ。あいさつは人と人を結びつける接着剤となる。坂巻社長はあいさつを通じて職場のみなを結びつけるネットワーク推進者の役割を果たしている。
また、どの会社でも行われている朝会やスタッフミーティングも再考が必要だ。多くの朝会やスタッフミーティングは普段は忙しく自分の担当業務に専念している人々を結びつけるいいチャンスなのであるが、運用はそうなっていない場合が多い。連絡事項の伝達、課題の進捗報告、売上状況の確認、今週の予定の共有などで費やされてはいないだろうか。せっかく社員が集まるのであり、社員からのアイデアをどんどん出してもらう場にした方が有効だ。そのためには、
などを検討してはどうだろうか。この3つの工夫をするだけで、確実にスタッフミーティングは「連絡会」から「場」に変わっていくはずだ。近頃では、さらに進んで仕事の話より週末の楽しい話題に特化する企業もある。みなの情報交換のバリアを下げ、人々をつなげることに徹しているわけだ。
また、その際にリーダーは、社員により広い視野や仲間意識を持ってもらうために、自分たちの仕事の話ばかりではなく、他部門の状況や、他部門の価値観や考え方を解説し、社内の融合を進めることも大事な役割となる。その意味では、リーダーは社内の他部門の現場や文化のディテールを把握しておく勉強が欠かせない。部下と一緒になって他部門批判をして騒いでいるようではいただけない。
組織においてタコツボ化やサイロ化が激しくなっているなかで日産のゴーンCEOが使って有名になったクロスファンクショナルチームも、部門間の課題解決という本来の意味以外にも、他部門のリーダー同士が相互の異なる価値観を調整し、日産全体を優先する価値観を創造した意味が大きい。
こうしたネットワーク推進者としての懐の深いリーダーシップ・コミュニケーションを適切に行うことで、個人知を組織知に広げ、組織効率を上げていくことができる。そのためにも忙しいとは言わずに、社員1人ひとりとの日常の対話や、他部門の自分の同期との飲み会などインフォーマルな場を持つ工夫をしよう。
とくおか・こういちろう 日産自動車にて人事部門各部署を歴任。欧州日産出向。オックスフォード大学留学。1999年より、コミュニケーションコンサルティングで世界最大手の米フライシュマン・ヒラードの日本法人であるフライシュマン・ヒラード・ジャパンに勤務。コミュニケーション、人事コンサルティング、職場活性化などに従事。多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所教授。著書に「人事異動」(新潮社)、「チームコーチングの技術」(ダイヤモンド社)、「シャドーワーク」(一條和生との共著、東洋経済新報社)など。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授