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» 2010年06月15日 14時00分 UPDATE

戦略コンサルタントの視点:買ってはいけないベンダーを買わないために――安直なシナジーを信じてはいけない (1/3)

企業が買収検討に合意すると、買い手は売り手の事業の価値・リスクを精査するためにデュー・デリジェンス(DD)と呼ばれるプロセスに入ります。今回はその中のビジネスデュー・デリジェンスについて、論じます。

[栗原 勝芳(ローランド・ベルガー),ITmedia]

『戦略コンサルタントの視点』のバックナンバーはこちら


 前回の「IT業界−甘い戦略の買収はそろそろやめる時」では、戦略的な裏付けのない、安直な買収に対する警句を述べました。通常の企業買収(M&A)プロセスにおいては、双方の企業が買収検討について合意すると、買い手は売り手の事業の価値・リスクを精査するためにデュー・デリジェンス(DD)と呼ばれるプロセスに入ります。

 DDの対象範囲はビジネス、法務、会計・税務、環境など多岐に渡りますが、今回はその中のビジネスデュー・デリジェンスについて、論じてみたいと思います。

甘いビジネスデュー・デリジェンスのつけ

 ビジネスデュー・デリジェンス(以下、BDD)とは、買い手となる企業が売り手となる企業の事業価値を見極めるために行う一連の評価プロセスのことを指します。

 具体的には、対象企業の事業を取り巻く市場環境、競合状況、収益構造、強み・弱みなどを明らかにした上で、買収後の事業戦略の方向性や向こう数年間の事業計画の作成などを行います。

 買収による成果をなかなか出せないでいるベンダーが多いのが実態です。この理由を買収後の統合戦略の迷走や、企業風土の融合失敗などに求めているベンダーが多いように見受けられますが、それらの本質的な原因はBDDでの見極めの甘さにあるとも言えそうです。

 つまり、買い手からすれば「買ってはいけない会社を買ってしまった」ということになりますし、売り手からしてみれば「幸せになれない相手に買われてしまった」のであって、買収前にそれが予見できなかったところにそもそもの失敗の真因があるのです。

シナジーという「魔法の言葉」でごまかさない

 では、なぜ買収前に失敗が予見できなかったのでしょうか。企業買収や経営統合を語る際の常套句として、「シナジー」という言葉があります。

 例えば「両社の顧客基盤は補完的な関係にあるため、双方の技術力を活かしたクロスセルを強化することでのシナジー発揮を目指す」というように使われるのですが、多くの経営者はこの言葉を目にすると、「なんとなく新たな事業機会が生まれそう」な気がしてしまうのです。

 では、買収前に想定していたシナジーは、本当に業績拡大に貢献しているのでしょうか。多くのシステムベンダーの経営統合を見ていると、飛躍的な業績拡大につながるようなシナジーが発揮された例というのは驚くほど少ないことに気づかされます。

 その中には、統合後の連携が障害になったケースもありますが、両社の要素技術がそもそも相互補完的なものでなかったなど、想定していたシナジー自体が「虚像」であるケースが実は多いのです。

 シナジーという聞こえの良い「魔法の言葉」でごまかすことなく、ハードルやリスクまで想定した実現性の高い成長、いわば「岩盤」としての事業価値と、両社が目指すべき将来の姿について地に足のついた議論を尽くすことこそ、企業買収を成功させる上での最大の鍵であると言っても過言ではないと思います。

システムベンダーに対する事業評価の落とし穴−大切な3つの視点

 では、システムベンダーの「岩盤」としての実力値を見極める上で、具体的にはどのような点に注意すればいいのでしょうか。BDDで評価すべき項目は多岐にわたりますが、今後、より活発に企業買収の対象となることが予想される中堅・中小システムベンダーのBDDで、大切な視点について考えてみます。

視点1: 技術優位は要素技術のレベルで実現されているか?

 一般に技術は、尖れば尖るほど競争優位にはプラスに働きますが、対象市場を拡大する上ではマイナスに働くという特性を持ちます。技術力とは、顧客が求める要件を、極めて信頼性が高く、かつ、他社水準以下のコストで実現する能力と定義できます。

 そして、その技術力の源泉は、例えば「システム間の連携モジュールを構築する上でのソリューションの引き出しが多い」といった要素技術と、「銀行の投信窓販の業務を熟知していて、システムの設計・開発・保守の肝を心得ている」といった業務知識に大別されます。

 ここで注意が必要なのは、要素技術に立脚した優位性は他の業界や領域についても基本的には展開が可能であるのに対し、業務知識に立脚した優位性を他の顧客や業界に横展開しようとすると、また同じだけの累積経験が必要になるという点です。

 例えば、「金融機関の勘定系システムに強い」と業界内で評価の高い中堅ベンダーがいたとしても、実態はある金融機関(例えば銀行)の勘定系システムの中の、特定の領域(例えば勘定系における投信窓販のシステム対応)の経験を有し、業界内での優位性を持っているに過ぎないことが多いのです。

 その中堅ベンダーを対象に、「顧客である銀行の中での他の業務領域への拡大」や「金融系での強みを活かした証券業界、保険業界への進出」といった議論は、はっきり言ってしまえば短期的にはまるで現実性がないことになります。

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