人間生まれてきたからには一事を成せ『坂の上の雲から学ぶ』ビジネスの要諦(1/3 ページ)

今は豊かで便利な時代であり、可能性は果てしなくあるが、われわれは生涯で一事を成そうとしているだろうか。

» 2011年01月18日 08時30分 公開
[古川裕倫,ITmedia]

 前回『坂の上の雲』は大きな時代の変化の中で、若者たちが大きな目標に向かって成長していく青春物語だった。

人間生まれてきたからには一事を成せ

 司馬遼太郎さんの作品は、われわれにいろいろなことを教えてくれるが、『坂の上の雲』の一番大きなテーマは何だろうか。

 わたしは、「自分の人生で一つの事を成せ」ではないかと思っている。これは『竜馬がゆく』にも共通している。

 『坂の上の雲』では、一事(いちじ)を成すという言葉が何度も出てくる。『竜馬がゆく』では、大事(だいじ)を成すという表現が多い。経済的な発展で豊かになり、通信やインターネットの発達で便利になった今日、われわれは、一事を成しているだろうか。かくいうわたしも56年も生きているのにまだ何も成していない。

 司馬遼太郎さんの作品から、主人公がどういう一事を成したのかを抽出してみたい。

坂本竜馬の一事とは

 竜馬(本名は龍馬だが、本連載からは、司馬遼太郎さん流に竜馬と統一する)は、犬猿の仲であった薩摩藩と長州藩を同盟させ、徳川幕府に対抗できる一大勢力とした。

 同盟した両藩は武力倒幕を目指すが、竜馬はそれをよしとせず、土佐藩主山内容堂をして大政奉還の建白書を徳川幕府に提出させた。15代将軍徳川慶喜がそれを聞き入れて、政権を朝廷に返上し、270年続いた江戸幕府政治が終わった。

 ポイントは、内乱を回避して、欧米列強の餌食になることなく、革命を成し遂げたことであった。幕府が政権を朝廷に返上した以上、薩長が徳川を武力で倒す大義名分がなくなってしまったのだ。

 わずか33年の短い人生ではあったが、大きな志と高い人間力と行動力を持って、この一事を竜馬が生涯で成し遂げたのであった。

『坂の上の雲』の主人公の一事とは

 主人公3人は全員江戸時代に松山で生まれた。秋山好古は安政6年(1859年)生まれ。誕生の6年前にペリーが初来航し、誕生の年に安政の大獄で橋本左内や吉田松陰が処刑され、その8年後大政奉還となる。

 好古は貧しい武家の生まれであり、授業料のかからない師範学校(教師育成の学校)に入学、教師を経て、陸軍士官学校に進学する。

 好古は、日本陸軍の騎兵を立ち上げ、後の日露戦争で「コサック騎兵隊」を打ち破り、大活躍した。これが好古の一事である。(わたしはもうひとつ別の一事を好古は成し遂げたと思っているが、これについてはいずれ紹介したい)

 弟、秋山真之は慶応4年(1868年)生まれで、同年明治元年に改元となる。よって真之の年は年号と同じであり、日露戦争開戦の明治37年は、真之37才である。

 連合艦隊の名参謀として活躍し、日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を撃破したことが真之の一事である。

 幼いころから尊敬していた兄や親友の正岡子規が上京するのを見て、自分もそれに憧れた。好古を頼って上京し、子規と共に東京帝国大学を目指したが、途中から海軍志望へと変わった。

 正岡子規は、真之が生まれた前年の慶応3年に生まれた。この年に、大政奉還があり、竜馬が暗殺された。

 「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」で知られている子規は近代俳諧の祖である。東京帝国大学で学び、新聞社に勤務しながら近代俳諧の道を極めた。これが子規の一事である。

 好古はフランスに、真之はアメリカに留学したこともあり、子規も海外行きを望んだ。ようやく従軍記者として満州に行くことが叶ったが、すでに終戦後であった。病弱で36才で亡くなる。

 『坂の上の雲』では、主人公3人が、自分の人生でそれぞれ一事を成したことが描かれている。さまざまな苦労や失敗をしながら、自分の将来を築いていったのだ。

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