実践のための秋山真之の勉強法『坂の上の雲』から学ぶビジネスの要諦(2/2 ページ)

» 2011年02月16日 18時00分 公開
[古川裕倫,ITmedia]
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真之が留学で学んだこと

 明治31年真之は海軍の派遣留学生に選ばれ、アメリカに渡った。このころ多くの書物を読んだり、米西戦争を観戦武官として視察したりと精力的に学んで、参謀としての基礎を固めた。

 真之は、元アメリカ海軍大佐、軍事思想化であるアルフレッド・マハンをニューヨークの自宅に訪ねて教えを請うた。マハンはアメリカ海軍の一員として、約30年前に日本を訪れていた。当時の日本はちょんまげの時代であり、武士は大小刀を差し、交通手段はかごであった。サムライの時代の日本人と、眼前にいる立派な日本海軍将校を比べて、マハンは感無量であった。マハンは当時多くの軍事評論を発表していたが、真之はそれらを原書で読んでおり、そのことにも驚嘆した。

マハンは、自らが書物から学ぶことの重要性を真之に教えた。

「過去の戦史から実例を引き出して徹底的にしらべることである。近世や近代だけでなく古代もやるほうがいい。戦いの原理にいまもむかしもない」「陸と海の区別すらない。陸戦をしらべることによって海戦の原理もわかり、陸戦の法則や教則を海戦に応用することもできる」(2巻238頁)


真之は米国で多くの世界の書物を読み、後に日本の村上水軍の戦い方も研究し、日本海海戦にその知恵を活用した。

学ぶことと行動すること

真之は学ぶだけではなく、それを行動に移すときのこともしっかり考えていた。学ぶだけのただの物知りでは決してなかった。

「明晰な目的樹立、そしてくるいない実施方法、それまでのことは頭脳が考える。しかし、それを水火のなかで実施するのは頭脳ではない。性格である。平素、そういう性格をつくらねばならない」(2巻216ページ)


 目的を明確にして方法をしっかりと考えたなら、行動する際にためらってはいけない。目標と方法は頭脳で考えられるが、実際の行動に際してはひるんではいけない。しっかり実行する勇気が必要だという。

 現代の組織においても、目標を立て実行計画を作るが、実行の際にささいな予期せぬことに出くわすなどして、途中で実戦部隊が急ブレーキをかけてしまうことがよくある。目標と方法を(頭脳で)決めたらなら、(体と心で)しっかり行動しなければならない。 

 江戸時代後期の儒学者佐藤一斎(さとういっさい)の言葉にこうある。

一燈(いっとう)をさげて暗夜(あんや)をゆく。 

暗夜を憂(うれ)うことなかれ。

ただ一燈を頼め。

(佐藤一斎、言志晩録13条)

  暗い夜道を一つのちょうちんを下げて行く。

  どんなに暗くても心配することはない。

  ただ一つの明かり(即ち、自分や組織の想い)を信じて進めばいい。

 真之は、本は道具に過ぎないと言ったそうだ。まったくそのとおりである。

 勉強をして自分を磨くことは必要であるが、知識を詰め込むばかりでは、まことにもったいない。黙って勉強しているだけならまだしも、自分は行動せずに知識に基づく評論だけをしているのであれば、むしろ頭でっかちの弊害が出る。行動力がない知識だけの上司には、部下はついてはこない。

 学んで自分にインプットしたことは、実践のためにアウトプットしたいものだ。アウトプットすることにより、また新しいインプットを欲するようになるのではないか。

著者プロフィール

古川裕倫

株式会社多久案代表、日本駐車場開発株式会社 社外取締役

1954年生まれ。早稲田大学商学部卒業。1977年三井物産入社(エネルギー本部、情報産業本部、業務本部投資総括室)。その間、ロサンゼルス、ニューヨークで通算10年間勤務。2000年株式会社ホリプロ入社、取締役執行役員。2007年株式会社リンクステーション副社長。「先人・先輩の教えを後世に順送りする」ことを信条とし、無料勉強会「世田谷ビジネス塾」を開催している。書著に「他社から引き抜かれる社員になれ」(ファーストプレス)、「バカ上司その傾向と対策」(集英社新書)、「女性が職場で損する理由」(扶桑社新書)、「仕事の大切なことは『坂の上の雲』が教えてくれた」(三笠書房)、「あたりまえだけどなかなかできない。51歳からのルール」(明日香出版)、「課長のノート」(かんき出版)、他多数。古川ひろのりの公式ウエブサイト。


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