「子供が親の思う通りに育つとは限らない。会社も同じ。今後を作り上げるのはスタッフと顧客」――ライフネット生命保険株式会社 出口治明社長トークライブ“経営者の条件”(2/3 ページ)

» 2011年05月20日 07時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

「ゼロからの発想」を重視して業界未経験者も積極採用

 役員や社員の採用・登用にも、出口氏のこだわりがある。マニフェストには「学歴フリー、年齢フリー、国籍フリーで人材を採用する」とうたった。

 「当社のスタッフは約70名。この人数で、内勤だけでも数万人という大手と勝負しなければならない。情報も全て開示しているので、他社が真似しようと思えばすぐにできてしまい、差別化要因もない。だから人材は非常に重要。スタッフ皆が知恵を絞らなければいけない」(出口氏)

 知恵を働かせる上で重要なのは、既存の枠組みに囚われない「ゼロからの発想」ができること。そのため、保険業界での経験が求められる査定業務など一部を除き、保険業界を知らない未経験者も積極的に採用している。その数は社員の半数あまりにのぼるという。もちろんスタッフの人数が少ないので、人と同じことしかできない人材では無理だ。自分の頭で考え、自発的に動ける人材でなければならない。

 発想を重視する点は、役員も例に漏れない。副社長の岩瀬氏はもちろん、主に営業とマーケティングを担当する中田華寿子常務も生保業界未経験だった。岩瀬氏は1976年生まれ、出口氏と谷家氏が出会ったときにはハーバード経営大学院に在学中だったが、谷家氏は岩瀬氏の能力を見込んで副社長に推薦した。有能な若手経営者として、出口氏を支える立場だ。

 中田華寿子氏はスターバックス コーヒー ジャパンでマーケティングを担当し、日本にスターバックスを広めた女性である。出口氏によれば、中田氏は面談の際、「ネット生保もBtoCという点ではスターバックスと同じ」と語り、生保業界に挑戦する意欲を見せたという。因みに、中田氏は、わが国の生保47社の中で、唯一の女性常勤取締役でもある。

「会社の今後を作るのはスタッフと顧客」

 ライフネットは開業から3年も経たぬ2011年3月に保有契約で6万契約を突破し、相当な勢いで伸びているとはいうものの、日本国内の生保市場は人口そのもので、保有契約は約1億だ。まだまだシェアは小さい。社長である出口氏自身も、「辻説法(講演)」に奔走している。自ら講演やインタビューなどで積極的に露出し、さらに数多くの著書を執筆して、その理念を広めていこうという作戦だ。

 「サイトを訪れる顧客のほとんどは、検索結果からの訪問。著書や講演などで興味を持ってくれているのだと思う。それから、『大きな名刺』を常に持ち歩き、開業以来、会う人全てに渡している。路上でティッシュを配っている人にも渡す(笑)」(出口氏)

 「大きな名刺」は、普通の名刺の3倍近い大きさのカードに、社の理念や概要を印刷したものだ。その反響として、若い人たちから会社に「大きな名刺を送ってください。もっと配りたいので」といった内容のツイッターやメールが届いたりすることもあるという。

 「そうすると社員たちはものすごく喜ぶ。70人のスタッフが、そういう気持ちでやっていけるように、と考えている。大手の物量に対抗するにはブランドを確立することが重要。過去のベンチャーが大手との競合を生き残ってこれたのは、サポーターとなってくれる顧客がいてくれたからではないだろうか。本を書いたり辻説法をするのは、そうしたサポーターを増やしたいから」と語る出口氏。

 「ライフネットの将来については、100年は続いてほしいし、将来的には世界に出ていってほしい。ネット生保として開業したのも、ゼロから始めるための戦略であり、ゆくゆくは総合的な保険会社になりたいと考えている。とはいえ、会社は子供のようなもの。子供が親の思う通りに育つとは限らないのと同じで、ライフネットの今後を作り上げるのは若いスタッフと顧客だ。インターンで訪れたある学生は、『ライフネットでは、社長・副社長の影が薄く、女性と若い人たちが引っ張っているような印象を受けた』と言っていた。だから、私は将来を全く心配していない」(出口氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆