「人生で一事を成す」とは【最終回】『坂の上の雲』から学ぶビジネスの要諦(1/2 ページ)

人生は長いようで短い。一生で自分に何ができるのかを考え、その人生を賭して成し遂げる一事を探し続けるのは昔も今も変わらない。

» 2011年11月14日 11時18分 公開
[古川裕倫,ITmedia]

 3年にわたるNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」の最終編が12月から始まる。いよいよ203高地の戦いや日本海海戦など物語の山場を迎える。

 これは、激動の時代に、できることを精一杯やって自分の一事を成そうとする人間物語である。登場人物たちが、人生の限られた時間で何を成そうしているかという観点で見るとたいへん興味深い。

毎日を大切に生きる

 もし、われわれがあと30日しか生きることができなければ、急いで株式投資をして儲けようと思だろうか。

 もし、あと10日しかなければ、好きなショッピングをしたり、行きたいと思っていた外国旅行に出掛けたりするだろうか。

 いや、そうは思わないだろう。そんなことより、お世話になった人に会いにいってお礼を言い、家族や後生に伝えなければならないことをしっかり話し、自分の身の回りの整理をしたいと思うのではないか。

 武士道を説いた「葉隠」(山本常長)に、「武士道と言うは死ぬことと見つけたり」とある。これは「武士は潔く死ね」ということではなく、「武士はいつ死んでもいいように、今日を大切に生きよ」という意味である。

 仏教に「常命」という言葉がある。誰しも定められた命がある。こちらも、毎日を有意義に大切に生きよという教えである。

 人生は短いからこそ毎日を一生懸命に生き、その中で何かを成し遂げたいものである。

一生で会える人の数など限られている

 わたしは若手にこう言いたい。長い人生と思っても蜻蛉(かげろう)の命のように短い。先人もそう言っているし、あっという間に50代後半になってしまった自分の人生を振り返ってもそうだ。

 若手はこれからたくさんの人に会えると思っていても、たかがしれている。

 Facebookで上限5000人まで友人を物理的にリストすることができるが、5000人のリストを持っている人は知らない人から友人要請があっても受けているに違いない。多くのユーザーが100〜200人程度であることからも、何千人も本当の友人などできるはずがない。

 知り合えた人とは何かのご縁があるのだ。そう思って知り合えた人を大切にすべきである。仕事人生は長く、何でもかんでもできると思っていても、実はそうではない。だからこそ人との縁と毎日を大切にして、やるべきことを思い切りやりたいものである。

「竜馬がゆく」「坂の上の雲」に共通するテーマ

 日本の多くの経営者がその座右の書に司馬遼太郎作品を挙げている。わたしは、司馬遼太郎さんの大ファンである。本連載の第2回でも触れたが、両作品のテーマは、「一事を成すこと」だと思っている。

 竜馬は、薩長同盟と大政奉還を成した。

 秋山好古は日本陸軍の騎兵を作り、弟の真之は海軍参謀として日本海海戦を勝利に導びいた。正岡子規は近代俳諧を確立した。

 好古は、「単純に生きよ」「人間生まれてきたからには一事を成せ」と言い続けた。

 竜馬にしても坂の上の雲の主人公にしても、激動の時代に、一生で自分に何ができるのかを考え、その人生を賭して一事に集中してやり遂げた。

 飽食の時代、情報が溢れ、なに不自由なく生きている現代で、わたしたちもこれを見習うべきではないだろうか。

司馬遼太郎さんの一事

 前にも本連載で触れたが、司馬遼太郎さんは、多くの日本人をその作品で感動させた。「竜馬がゆく」と「坂の上の雲」の2作品で4、800万部とも言われている。

 この数字は、日本全国の所帯数とほぼ同じであり、一家に1冊あることになる。司馬さんは、40歳から5年間「坂の上の雲」の下調べをして、4年半にわたり産経新聞に連載した。まさに、働き盛りの10年を一つの作品に費やし、見事に日本人の心を動かした。

 作品のテーマである一事を本人も見事に成し遂げた。あっぱれである。

 司馬遼太郎さんの小説が史実に基づいていないなどと言う学者がいるが、とんでもない話である。司馬さんのように一事を成してから言ってもらいたいものだ。

 大阪府東大阪市に司馬遼太郎記念館がある。機会があればぜひ行ってみて欲しい。執筆に使った書斎や7万冊という膨大な文献が陳列されている。まさに図書館である。文献の一部は、専門家が神田の古本屋を回って、トラックで東大阪市に運搬したそうだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆