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» 2011年11月25日 08時00分 UPDATE

ビジネスイノベーターの群像:業界の常識を疑うことが変革の出発点――ソニー生命の橋本常務 (1/2)

イノベーションが起きにくいと思われている生命保険の世界で、業界の常識に疑問を投げかけるところから始まったソニー生命は今や業界大手の一角を占める。それは顧客の人生に寄り添う提案を続けてきたたまものだという。

[聞き手:浅井英二、文:蒲池明弘,ITmedia]

 斬新な営業スタイルで、保険業界に新風を巻き起こしたソニー生命保険。営業開始から約30年、すでに保険業界で確固たる地歩を占めているがベンチャー精神は今なお旺盛だ。ソニー生命のイノベーションはいかにして構想され、どこへ向かおうとしているのか。橋本眞史・執行役員常務にその背景と戦略を聞いた。

異形の営業部隊の誕生

hashimoto2902.jpg ソニー生命の橋本常務

 ソニー生命はソニーグループの生命保険会社(当時はソニー・プルデンシャル生命保険)として設立され、1981年に営業を開始した。新機軸として打ち出したのが、異業種を含むさまざまな企業からヘッドハンティングされた大卒男性による営業活動。当時は、生保レディと呼ばれる女性外交員が一般的となっていたため、男性だけの営業部隊は異形の集団だった。

 「ライフプランナー」と命名された男性営業マン。営業開始時に在籍した27人のライフプランナーのひとりが、橋本氏である。8年ほど勤めた自動車業界からの転身だが、同期のライフプランナーの多くも異分野の出身だった。商社マン、新聞記者、スポーツメーカーやコンピューター関係と実に多彩な前歴である。

 「われわれが新規参入したとき、ほかの生命保険会社は皆一様に胸をなでおろしたという。大卒男子の保険営業などうまくいくはずがない。生保業界のほとんどの人がそう思っていたのだろう」と橋本氏は振り返る。

 しかしソニー生命は順調に業容を拡大し、新契約高(※2010年度実績。個人保険分野)では業界4位にランクされるなど、今や業界大手の一角を占めるまでになった。27人からスタートとしたライフプランナーは、約4000人にまで増えている。

 「ソニー生命のイノベーションは業界の常識を覆すところから始まった。ソニーというメーカーと米国の保険会社との合弁でスタートしたことも、従来の日本モデルに疑問を投げかけることができた理由の一つだろう。業界を変えるのだ、イノベーションを起こすのだ──そんなソニー生命の設立理念が、ライフプランナー一期生の琴線に触れ、夢を持って新しい仕事に取り組むことができた」(橋本氏)

業界風土に疑問を投げかけることで成功

 なぜ、ソニー生命はライフプランナーという異色の営業戦略をとったのか。橋本氏はその背景を業界全体の歴史的な成り立ちから説き起こした。

 日本の生命保険は第二次大戦後、急速に拡大する。それは女性外交員による人海戦術がもたらした成功であり、その人員規模はピーク時の80年代には40万人ほどに達していた。

 当時は、極めてターンオーバー率が高く、保険知識にあまり詳しくなくても、親戚や知人に販売して、数年のうちに辞めてしまうというサイクルが繰り返されてきた。

 一方で、ソニー生命は設立当初から、保険の営業に携わる者は、顧客の価値観やニーズを把握し、生涯(ライフ)を設計(プラン)する責任と能力を有すると表明している。営業社員をライフプランナーと命名し、高度な知識と技能をもつプロフェッショナル集団たるべしという理念を掲げたのは、安藤国威氏をはじめとする創業時の幹部である。安藤氏はのちにソニーの本体に戻り社長となっている。

 「ライフプランナー」とは生命保険のプロフェッショナルであるソニー生命(当時:ソニー・プルデンシャル生命)の営業マンたちを示すための造語であり、現在では商標登録もされている。

 「お客様を訪ねて家族のことや人生の夢を聞き、生命保険についての基礎知識を丁寧に説明する。当たり前のことだが当時は珍しいことだった。その上でお客様のニーズに適した保障を設計するのが、われわれの営業モデルだった」(橋本氏)

 旧来は、画一的なセット商品が主に販売されていたのに対し、ソニー生命はオーダーメイド型の保険を丁寧に販売する戦略だった。

 しかし、理想の実現は簡単ではなかった。生命保険のプロフェッョナルであるライフプランナーがお客様一人ひとりに丁寧に説明しても、本当にこれで良いのだろうか。本当にお客様のニーズに応え、生命保険のあるべき姿を実践できているのだろうか。周囲からそのように見られるだけでなく、自分でもそう考えて落ち込むこともしばしばだった。

 「同期のライフプランナーが集まって酒を飲むと会社や上司の悪口、雑談など全くなく、ライフプランナーとは何なのだ、どうあるべきなのかという議論ばかりだった」と創業時の思い出を話してくれた。

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