イノベーションにおける誤解を解消するGartner Column(1/2 ページ)

優れたイノベーターに最初から豊富な資金・技術力・アイディア力があったわけではない。共通していたのは目的・目標を定め、自分自身がすべきことは何かを決めていたこと。

» 2011年11月30日 08時00分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]

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 先月、東京・お台場で開催したガートナー主催の「Gartner Symposium/ITxpo 2011」では、多くのお客様にお越しいただきまして、本当にありがとうございました。今年のシンポジウムのメインのテーマは「イノベーション」。国内外の多くのアナリストがITの役割を再認識して、ビジネスにイノベーションを興すべくCIO/IT部門は活動しなければならないという話をしました。なぜ、ことさらCIO/IT部門イノベーションなのか?というと、一般的にあらゆる市場で競争が激化しており、今までと同じか、その延長戦上にある製品・サービスの差別化、はたまた値下げによる価格競争は限界であると経営トップたちが感じており、ITのリソースやケーパビリティをビジネスと融合する以外に画期的な勝ち残り策がないと考えているからです。

 わたしは、今回のコラムのタイトルで講演をしたのですが、この中のエッセンスを取り出して、読者の皆さまに紹介します。「世界レベルの優れた日本人イノベーターに学ぶ」という副題で3人の素晴らしいイノベーターの行動様式や思考についての特徴を話しました。実はその部分がわれわれ凡人とは異なるのであって、類いまれなチャンスを与えられたり、特別なリソースを持っている訳ではありません。実は、このことはとても重要で、資金が無い、技術力が無い、アイディアがないからイノベーションが興せないと考えがちですが、秀逸なイノベーターたちも、豊富な資金・技術力・アイディア力が最初からあったわけではないのです。

 全員に共通していたのは、「何をすべきかを決めた」ことでした。目的・目標をはっきりと定め、自分自身がすべきことは何かをしっかりと決めることによって、その後に起こり得る困難辛苦に立ち向かうことができたのです。困難辛苦は、資金不足や人材不足というような話ばかりではありません。そもそもの目的を揺るがすようなことまで起こり得ます。成功途上ではいろいろなことが起き、心が惑わされます。しかし、イノベーター達は「何をすべきか決めた」ので惑わされることはありません。

 3人のイノベーターの中の1人であるサンメディカル技術研究所の山崎俊一社長は次のように語ります。「何をすべきかを決めたら、そのことが良く見えてくるのです。例えば、ベンツを買おうと決めたら、道行く車の中でベンツが気になり良く見えるようになるのと同じことです。」

バランスではなく両立する

 われわれは、普段の仕事の中で背反する2つの事象について、どちらを選択するか決断する場面に遭遇します。そんな時「最適化」とか「バランス良く」といって、2つの事象が衝突しないように「調整」という名の下に、双方の突き抜けている部分を削り取って、結果的に両事象の優位性を無くしてしまうことがあります。同時に2つの事象が衝突し合い、しかも甲乙付け難いのならば、両立させる方法を考えるしか勝ち残る方法はありません。これは、イノベーター達の基本的な考え方なのですが、彼らは「バランス」させることを重んじません。むしろ両立させることを徹底的に考えます。両立させることは簡単ではないので、模倣困難性が高まります。そして、両立させることこそイノベーションそのものなのです。

 われわれは、普段の生活の中で最適化したりバランスさせたりすることにより、イノベーションの種を自ら捨てているのです。両立させるためには、アイディアと工夫が必要です。そして、今までの常識にこだわらない思考が必要です。そのためには、他の人とは違う情報源を持つようにガートナーではアドバイスをします。日本人が割と得意とする「みんなやっているから」ではイノベーションは興りません。そしてイノベーター達は、「誰もやらないからこそ意味がある。」と考えるのです。

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