経営のヒントになる1冊
スタウトに込められた情熱の歴史――「ギネスの哲学」
読者の皆さんは「ギネス」といえば何を思い浮かべるだろうか。おそらく大半の方が「ギネスビール」、あるいは世界一の記録を集めた「ギネスブック」と答えるだろう。だがギネスを生み出した企業(旧ギネス社・現ディアジオ社、日本ではキリン・ディアジオ社)が、1759年の創業以来、数々の社会貢献事業を行ってきたことはあまり知られていない。
アイルランド初の日曜学校の創設、地域社会の貧困削減事業、大飢饉の対策といった地域社会に貢献してきただけでなく、1日あたり2パイントまで無料でギネスビールを提供したり、独身社員のデート代まで補助したりという福利厚生の整備など、事業で得た利益をあらゆる場面において還元してきたことが明らかになっている。しかもこれらはすべて、CSR(企業の社会的責任)という言葉が生まれるはるか以前の話だ。
社会貢献だけでなく、ビジネスという点においてもギネスは突出していた。イギリスの小さな属国であったアイルランドから生まれたビール「ギネス」は、いまや生産49カ国、販売150カ国という、まぎれもなく世界トップクラスの商品となっている。しかも、創業から160年間、1920年代までは広告宣伝をいっさい行っていない。それは商品の質のみの向上を目的として数々の技術革新を行い、顧客との密接な関係を大事にしてきたからにほかならない。
そもそも、あまりビールを好きではなかった米国のノンフィクション作家、スティーヴン・マンスフィールドが本書を著したのは、この企業の稀有な歴史に魅せられたからだ。
「儲けたければ、まわりを儲けさせる人であれ」
ギネスの経営者の一人が語ったとされるこの言葉が、「ギネスの哲学」を端的に表していると著者は言う。この哲学、あるいはビジョンは現代まで脈々と受け継がれている。これこそが世界に愛されるブランドを作り上げたゆえんだろう。この言葉はビジネスそのものの本質を突いている。金を儲けたから社会貢献するのではない。まず他者に寄与してこそ自らの繁栄にもつながるという考え方は、経済や社会の持続性を考えるときに欠かせない視点である。
あらゆる企業がビジョンを持っているものの、それを体現できている企業はどれくらいあるのだろうか。決まり文句の言葉に堕していないだろうか。250年の間絶えることなく、ローカルからグローバルへ成長し、多くの人々を救い、世界の中で揺るぎないブランドを確立したギネスの物語は、これからの企業経営にも学ぶところは多いはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
経営のヒントになる1冊
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
米国外初のグーグル直営店「Google Store 表参道」がオープン
-
2
「欲しい人がいなかった技術」脱炭素コンクリ、大阪・御堂筋のビルに導入 大成建設
-
3
生成AIに善悪はない――しかし「使い方を決めない経営者」には責任がある
-
4
すぐに使える「二項対立」の視点
-
5
“紳士”東芝を変えたアメとムチ―――土光敏夫【第3回】
-
6
AIが委託プロセスを正す! スノーピーク田中氏が示す開発共創プロセス
-
7
54年の歴史に幕を閉じる岩波神保町ビルで、イマーシブ公演「僕たちの映画館」が開催
-
8
第50回:なぜ「優秀なマネジャー」ほど経営に嫌われるのか
-
9
キーエンス出身CEOが語るシン・マーケットイン型付加価値組織への転換方法
-
10
「やりたくない仕事」からAI化せよ ――NEC CISOが語る、生成AIでセキュリティ防御を変えるための組織の作法
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー