安売りの店から「情報とサービス」の提供へ――テンポスバスターズ 森下社長石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(1/2 ページ)

中古品の機器販売に終わらず、飲食店を始める人にとって必要な店舗の情報や事業へのアドバイスも始めた。既存にとらわれることなくチャレンジし続ける企業が、次の新たな成長を手に入れられる。

» 2012年09月26日 08時00分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

 まず、会社に足を踏み入れたとき、なるほど、という思いと、かなりの抵抗がある、という感情が交錯します。会社には人格がある。米国のトップを走るIT企業や、広告代理店などは、うらやましくなるほどのクリエイティブな環境で、ランチもディナーも提供してくれる会社があるが、この会社には冷房もなく、扇風機は首がまわらない。デスクもイスも電灯もカーテンさえもリサイクルです。

 どちらがいいというものでもないのですが、あえて、言及するなら、どちらかに尖っているほうがいいと感じました。極端な法人格は分かりやすい。それを好む人が集まってきて、それによりまた、人格が研ぎ澄まされていきます。会社の永続性を論議するときに、会社の文化や人格は欠かせない要素であり、模倣困難性という観点からとても大切なものなのです。ですから、ここには模倣しようと思っても模倣できない人格があります。

テンポスバスターズの成功要因

「オフィスの什器は中古なので、椅子の形もそれぞれ違います。」テンポスバスターズ 森下社長

 さて、今回は、リサイクル業界で特異な地位を築いているテンポスバスターズ(以下、テンポス)の代表取締役社長 森下和光さんにお話を伺いました。リサイクルというと、馴染みがないという人も多いかもしれませんが、デフレの時代に、高い成長率を誇る業界です。テンポスは、その中で、飲食店に特化したリサイクルを行っています。創業は1997年、5年で上場を果たし、10年で100億を超える売上げを達成、現在15年目ですが、2012年の売上高は145億円、経常利益11億9500万円という優良企業です。

 テンポスが5年目で上場できた要因は、厨房のリサイクルだけでなく食器、調理道具、椅子、テーブルなど品揃えを豊富にしたことにありました。また、他のリサイクル会社は中古しか扱わないのに、テンポスは、中古品ではそろわない製品を新品でしかもディスカウントで販売しました。これは、価格よりもプロダクトポートフォリオを重視しています。店舗開店に当たりほぼすべての材料を提供することにより、新規開店の顧客ニーズにしっかりこたえた政策の勝利といえます。当時、中古品は粗利が非常に大きく、新品を赤字でも販売できる状況だったという環境を熟知したからこそできたことです。

どの業界にもある事業サイクルがリサイクル業界にも

 産業にも製品にもライフサイクルというものがあります。市場創造が起こる「導入期」、市場が立ち上がり顧客獲得が始まる「成長期」、多くの競合がひしめき合い価格競争も起こる「成熟期」、そして、もしサービスや技術が何か他のもので代替されるようになれば「衰退期」も存在します。次々と出店を加速していったテンポスも、知見がたまり学習をして、成長する時期がありました。しかし、10年を過ぎ、出店が大都市圏から地方都市へ広がると、出店から1年を経過しても黒字化が難しくなってきました。特異なビジネスモデルも競合が模倣するようになり、競争が激しくなります。

 10年を過ぎてからの4年間はテンポスの成長戦略の練り直しの期間になりました。リサイクル業から周辺に業務を拡大していきました。不動産情報を届ける、格安に内装工事を行う、再生支援をするなど「情報とサービス」の提供を開始、M&Aを実行する一方で、赤字店舗を整理しました。

基盤再構築、そして、これから

 テンポスでは、この4年間で基盤が再構築されたと考えています。今後は、売上を2倍にする計画を立てています。しかし、それを支える市場環境は?

 テンポスを、リサイクルではなく商品ラインから見ると、厨房業界に分類されます。この業界も競争が激しくなり、中小は淘汰されています。1700億弱の売上を誇るホシザキを筆頭に100億以上の企業は12社、今後それが6社に統合されていくでしょう。テンポスは、これからの大競争時代にぎりぎり間に合った、最後にやってきた大手という位置づけでした。そして、市場環境は甘くない時代に突入します。厨房にしても、飲食のリサイクルにしても、円高で工場が海外に移転したことによる可処分所得の減少、少子高齢化による人口の減少が、外食産業をむしばんでいきます。

 そのためテンポスは安売りの店から、付加価値の高い「情報とサービス」を提供することで、元気な飲食店の経営拡大をサポートすることにしました。他社との共同セミナーの開催、地域を巻き込んでのイベントの実施などで、地元飲食店にとってなくてはならない位置を占めるほどになっています。また、機器だけでなく、不動産や内装、またファイナンスなどの店舗運営に必要な「情報とサービス」をトータルで提供する企業になるべくアライアンスを進めています。

また、中小の飲食店では手薄になりがちな、社員教育や店舗改装のアドバイス、業界動向の提供など経営者の視点でアドバイスできるFBP(フードビジネスプロデユーサー)を育成しています。

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