日本のCIOは、デジタルワールドの潮流に乗れるのか? ――CIO アジェンダ 2013Gartner Column(1/2 ページ)

企業は生き残るために「他とは違う」「自社特有の」「お客様に選択され得る」特徴を持つ必要がある。そのためには、企業におけるテクノロジの潜在力を高めざるをえない。

» 2013年04月08日 08時00分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]

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 先日、ガートナー ジャパンでは、昨年末に実施したCIOへのサーベイの結果を発表しました。「日本と海外のIT戦略、意識の差が鮮明に ガートナーのCIO調査」記事でも紹介されています。今回のコラムでは、その内容を元に、もう少し深堀りした内容で、お届けしたいと思います。

 今年のCIOアジェンダを説明する前に、デジタルワールドについて少し説明しなければなりません。というのも、ガートナーがIT/ISという言葉を使わずに、「デジタル」とか「デジタル・テクノロジ」と表現しているのには、従来のIT/ISとは、一線を画したモノを指しているからなのです。知らない言葉が出てきた時に直訳しても、何ら意味は分かりません。今回のコラムは、この「デジタル・テクノロジ」の説明から始めます。

従来のIT/ISとデジタル・テクノロジの違い

 従来のIT/ISは、主にトランザクション処理型であるといっても過言ではありません。つまり、伝票を端末(コンピュータ)に入力して、データが処理され、データーベースに書き込まれ、帳票が出力され……という一連の処理です。会計や、サプライチェーンや、CRMと呼ばれる、顧客接触履歴記録システムなども、このトランザクションシステムの類いです。

 では、最近になって特にいわれるようになった、デジタル・テクノロジとは何でしょうか? われわれが保有している携帯電話や、タブレット端末には、GPS機能が付いています。ここには、所持者がどこにいるのかが分かる仕組みになっています。例えば、このGPS機能を利用して、顧客の位置情報を取得し、その居場所に適したセールスプロモーションを行うなど、「直接的に、セールス活動に結びつくもの」。

 スマートフォンアプリで拡張現実機能を提供し、拡張現実によって見られている「プロダクト」が何で、どのような説明を欲し、どの情報によって購買が決定されたか、もしくは、購買しなかったかなどの情報を、直接的に取得したり、TwitterやFacebookなどの書き込みを分析して、会社の評判や、プロダクトやサービスの評判を分析しようという試み。つまり、ITと言えばITだが、少なくとも従来型のITとは一線を画した「ビジネス・フロント」に直接的に働きかけるようなテクノロジを「デジタル・テクノロジ」と言って区別をしています。

 テクノロジ領域としては、モビリティ、ソーシャル、アナリティクスの他、センシング・テクノロジなども、対象になります。今まで、得意としてきたテクノロジ領域とも、少し違った領域となるのも特徴です。しかし、われわれがデジタル・テクノロジと指す場合は、いわゆる技術領域の話ではなく、ビジネスに直接働きかける領域を指します。

デジタル・テクノロジの実例

 そうはいっても、なかなか実例がなければデジタル・テクノロジを利用したビジネスも理解できないかもしれないので、いくつか実例を挙げてみましょう。例えば、皆さんがゴルフ場に行ったとします。クラブハウスで着替えている間に、携帯にメールが入って来ました。「今日1日分のゴルファーズ保険に入りませんか? このメールのURL部分にクリックすると○○○○円/日で、保険に入れます。料金は、携帯電話のコンテンツ利用と同じように請求します。」もし、いつもゴルフをするわけではなく、保険に入っていなかったら入ろうとするかもしれません。

 このメールは、携帯電話のGPS機能を使って、どこにいるか? を判断してメールを配信するのです。保険会社がデジタル・テクノロジを駆使して、コンテキスト(ビジネスのシナリオ)を発見している好例です。

 最近では、拡張現実というスマートフォンアプリを利用するマーケティング活動も研究され、実用化しています。カタログ通販会社が、カタログの商品にスマートホンのカメラをかざすと、画面に商品の詳細な説明(原料や材料についての説明や、工場での生産の様子など)が出てくるようなアプリです。

 商品に関するどんな情報が、ヒットして購入に結びついたか?逆に、購買に結びつかなかったか、など詳細にデータを取ることができ、消費者の指向がより詳細に分かるという仕組みです。このように、ビジネスに直接的に結びつくITと言えばITだけど、従来のITではない領域のことを主にデジタル・テクノロジと呼んでいるのです。

企業におけるテクノロジ利活用度合い

 昨年末に実施したCIOサーベイでは、企業はテクノロジの潜在力を平均で43%程度しか引き出せていないと回答しました。企業に導入されているテクノロジの能力の半分も使いこなせていないとCIO自身が答えたのです。こうしたCIOの見解を考慮すると、「ITは、本当に企業成長を支援する経営資源になり得るのか?」と疑問が湧いてくるのは当然のことです。

 そして、われわれガートナーは、このような疑問に対し「YES、テクノロジは、企業成長を支援する経営資源です」と自信を持って回答しています。しかしながら、このような大きなギャップを埋めるには、CIOが単に額に汗して働くだけでは結果が出ないことも明らかです。

 一方で、経営トップや、ビジネス部門のエグゼクティブたちは、ガートナーが実施したCEOサーベイや、エグゼクティブ・サーベイに、戦略的課題のトップに「競争優位を確立すること」と回答しています。競争優位を生み出し確立するとはどういうことでしょうか。簡単な言葉に置き換えると「他とは違う」「自社特有の」「お客様に選択され得る」特徴(特異性)を持つということです。

 そして、彼らは、まさに今、モビリティ、アナリティクス、センシング、ソーシャル、クラウドといったデジタル・テクノロジが、自社に競争優位をもたらす特異性を実現するリソースになり得ると気付き始めています。つまり、CIOやITエグゼクティブたちは、企業におけるテクノロジの潜在力を高めざるをえない状況となっているのです。

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