新興国市場での成功の鍵――「FRUGAL」製品の可能性と落とし穴視点(1/3 ページ)

先進国を凌駕しうる非常に大きなポテンシャルを持つ新興国において、いかにして成功するか。新興国進出において、日本企業が陥りやすい3つの落とし穴について考えてみる。

» 2013年07月29日 08時00分 公開
[大野隆司、鶴見雅弘(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

「フルーガル(FRUGAL)」、それは、現在、先進国を凌駕しうる非常に大きなポテンシャルを持つ新興国において、成功に至るための重要なキーワードだ。多くの日本企業が、新興国市場への進出を試みているものの、成功に至っているケースは多くない。多くの企業では、新興国市場進出においては、独自性(機能面やプレミア感)を持ちつつも、現地で受け入れやすい価格帯で提供すればよい、ということに気づきつつも、なかなかビジネスの成功にまでつなげることができずにいる。本稿では、「フルーガル(FRUGAL)」の考え方を紹介するとともに、新興国進出において、日本企業が陥りやすい3つの落とし穴について考えてみる。


1.魅力的かつ独特な新興国市場

魅力的な市場

 2011年に70億人を突破した世界の人口は、2030年には80億人に達する。(国連予測)

 この人口増加に伴い世界のGDPは約3.5倍に拡大することとなるが、この伸びの約70%は、現在の新興国で発生することとなる。このとき、これら進興国のトップ20ヶ国で、世界の実質GDPの42%を占め、それはG7のGDPの合計を凌駕することとなる。大きな市場へと姿を変えつつあるのだ。

 以上は、あくまでも未来予測ではあるが、蓋然性は高いと考えられる。

 これからの企業の成長には、これらの20カ国をはじめとした新興国全体に対して、どのように向き合っていくか、つまり市場・顧客に、うまくアプローチしていくことが不可欠となってくるわけだ。

先進国とは異なる独自進化

 「インドネシアは日本の昭和30年代……」といった言い回しを耳にすることは多い。

 これは、「日本の高度成長期と同じような熱気を感じる」といった意味合いで言われる方も多く、それはそれで問題はない。一方で、依然として、「発展途上国は、先進国のたどったのと同じ道のりで、発展していくもの」という経済発展段階説とでもいう考え方が根強く残っているのも現実だろう。

 これは大きな間違いである。

 いまの時代、後発であるが故に享受可能なメリットが大きく変わってきている。インフラ面での制約や技術的なハードルを一足とびにし、これまでに類を見ない経済発展の過程をたどっている。

 例えば、携帯電話である。市場に安価な携帯電話が登場した結果、固定電話の普及というステージを経ることなく、多くの新興国の携帯電話普及率は先進国のそれを凌駕しており、普及率が100%超の国もかなりの数に至っている。(注1)

 また、新技術などにも関心が高い。Facebookの利用者数は全世界で11億人を突破したといわれているが――本当のユーザ数が11億人なのかという点には疑問の声も多いが――、アジアをはじめ新興国を中心に引続き利用者数が拡大している。(注2)そして、新興国の消費者は、パソコンよりもノートパソコン、ノートパソコンよりもスマートフォンといったように、一足飛びに最先端の技術を備えた製品を活用しアクセスしているのだ。

 更には、規制整備が遅れているが故に、独自進化が進んでいるという点もあげられる。安全性評価基準や個人情報保護の取扱いなどに規制が厳しいため、先進国では実現できない、あるいは実現までに時間がかかる取組みが、逆に新興国では爆発的なサービスとして普及することも少なくない。

 ケニアの大手携帯電話会社のサファリコムが提供する、携帯電話を活用した送金サービス「M-PESA」がまさに顕著な例だ。利用者は取次店で携帯電話に現金をチャージし、受取人にSMSを送ることで送金ができるシステムだ。

 このようなモバイルバンキングサービスは新興国を中心に爆発的に普及し、世界中で140を超えるサービスのうち、その半数以上はアフリカ諸国を対象としたものになっている。

 国民の大部分が通常の銀行口座を持つ先進国では、セキュリティの観点からもまず生まれえない発想といえるだろう。日本では一時期薬のネット販売規制があった結果、消費者にとって不便を生じていたことは記憶に新しい。

2.出遅れた日本企業/日本ブランド

 このような有望な新興国市場に対して、日本企業の出遅れ感は否めない。

 新興国へ足を踏み入れた際に、真っ先に気がつくのは、欧米や、韓国企業の看板が圧倒的に多いことである。既に新興国の主要都市では、欧米のブランドショップが軒を連ね、LG、サムスン、フィリップスのテレビCMが間断なく流れている。実際に日経BP社の実施した「ブランド・アジア2013」においても、Coca-Cola、Apple、SAMSUNG、Googleなどのグローバル企業や、一部のローカル企業がアジア新興国におけるブランドイメージトップに名を連ねている。残念ながら日本のTOYOTA、HONDA、SONYといったブランドはその後塵を拝しているのが実態だ。

図1:新興国における特許出願状況

 新興国での特許出願でも、日本企業は大幅に出遅れている。南アフリカの2010年の特許出願件数は、米国が全体の約30%を占めて首位。日本は約4%と大きく離されており、欧州勢に比べても見劣りする。中国では辛うじて欧米勢を上回っているものの、これから市場として本格化するインドやブラジルなどの地域では順位を落としており、ブラジルでは米国・欧州が全体の約30%、日本は約8%に留まる。

 日本勢が強かった東南アジア諸国連合(ASEAN)でさえ、欧米勢に勝っているのは2009年の出願シェアが約30%だったタイのみ。新興国ビジネスで勝ち残るためにも、知的財産戦略は不可欠な要素となっている。(図1参照)

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