空・雨・傘とビッグデータ活用により実践するマーケティング戦略で企業の競争優位性を確立(1/2 ページ)

早稲田大学 IT戦略研究所は、マーケティングとビックデータから考える仕組みづくりをテーマに「第41回 インタラクティブミーティング」を開催。電通コンサルティング ディレクターである及川直彦氏が、「ビッグデータのマーケティング戦略にもたらす意味合い」と題した講演を行った。

» 2013年09月25日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 インタラクティブミーティングの開催にあたり、「データ分析と仕組みづくりによる競争優位構築」と題して早稲田大学 ビジネススクール統括責任者の根来龍之教授が登場。「よくビジネスは直感であると話す経営者がいる。確かに不確実性の高いビジネスにおける意思決定に直感は必要である。しかしその一方で、データ分析によりマネジメントできる競争優位性もある」と話す。

 例えばスポーツの世界では、選手の入れ替えや次の戦略などのマネジメントにデータを活用しはじめている例もある。データがなければマネジメントできないというのが重要なポイントになる。そこで語られるのがビッグデータである。

ビッグデータは模倣困難性の実現が重要

 「ビッグデータは、定義があいまい。狭義としては、リアルタイムで非構造化データを含むデータを処理することと定義されている。したがって非常にデータ量は多く、数ペタバイトの分散処理を前提にビックデータと呼んでいる。定義そのものにはあまり意味はなく、大量のデータが低コストで収集、分析できるようになったことが重要である。中でもソーシャルメディアのデータが注目に値する」(根来氏)。

 ソーシャルメディアのデータを活用することで、誰がどんなことに興味を持っているのかをリアルタイムに把握することができ、新たな価値を創造し、顧客に提供することができる。根来氏は、「ただし他社と同じことをしても意味はない。いかに先行者利益を得るか、模倣困難性を実現するかが重要になる」と話している。

ビッグデータとデータ分析の相違点

 根来氏に続き登壇した及川氏は、「ビッグデータという言葉をよく耳にするようになってきたが、技術的にさまざまな定義がなされている。定義がはっきりしないものを語りたくないので、これまではビッグデータに近づかないようにしていた。しかし逃げてばかりもいられなくなったので、自分なりに定義をしてみた」と講演をスタートした。

及川直彦氏

 「"ビッグデータとは、データ分析の言い換えにすぎないのではないか"と考えている企業経営者は多い。確かに両者は無関係ではない。ビッグデータ活用の動きは、従来のデータ分析と同様に、データから知見を引き出して事業上の優位性につなげることを狙いとしている。ここまでは、まったく変わりはない」(及川氏)

 ただし、これまでのデータ分析とビッグデータには、3つのポイントで重要な違いがある。ビッグデータの定義として「3V」という言葉で表される「Volume(量)」「Velocity(鮮度)」「Variety(多様性)」の違いである。

 まず、Volume(量)の違いでは、すでに数ペタバイトのデータセットをデータ分析で取り扱う機会が生まれている。また、Velocity(鮮度)の違いでは、リアルタイムあるいはそれに近い情報が取り扱えるようになり、これにより競合他社よりもはるかに俊敏に動くことが期待できる。

 「携帯電話市場では、新しい機種が出るたびに顧客セグメントが変化する。そこで顧客の心をつかむには、データの鮮度が重要になる。2カ月前のデータでは、顧客のニーズを分析できない状況も出てきており、コンサルティングが難しい時代になったといえる」(及川氏)

 最後のVariety(多様性)では、データ分析のために、例えばSNSに投稿されたメッセージや近況情報、画像、センサーデータ、携帯電話からのGPS信号など、さまざまなデータを取り扱う必要がある。「基本的には、データは問題解決のための意思決定に重要になるということに変わりはない」と及川氏は話している。

問題解決のステップ:空・雨・傘

 問題解決のための分析は、「空・雨・傘」というステップで構成される。「ロジカルシンキングという言葉を聞いたことがあると思う。ものごとを論理的に考えるロジカルシンキングを、前職であるマッキンゼー・アンド・カンパニー(マッキンゼー)時代には、空(現状の把握)、雨(意味合いの抽出)、傘(解決策の策定・実行)という3つのステップで定義していた。

 空・雨・傘による問題解決とは、例えば「空の色は青いか」という現状の把握に対し、西から黒い雲が来ていれば、次に「雨は降りそうか」という意味合いを抽出。さらに「傘は必要か」「必要ならば持とう」という解決策の策定・実行により、問題を解決するという手法である。

 「空の状況を見て、雨が降りそうだから傘を持とうというアクションにつながることが重要。このクライアントはここが勘所で、たぶんこうであるという仮説は浮かぶが、その問題を解決するための意思決定まで及ばないことが多い。これを称して"傘は開くけど、空が見つからない人"と呼ぶ」(及川氏)。

 一方、「空が得意」という逆のタイプもいる。膨大なデータを収集して、膨大な分析をやる。しかし、空と雨の間をさまよって、傘が見つからなくなる。分析結果を意思決定につなげる必要がある。

及川氏は、「経営的な意思決定を行う場合の重大な判断と、その判断の決め手となるデータ収集が、空・雨・傘のポイントだ」と話す。

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