世界中どこででも同一の商品、同一の品質を提供──YKKの強さの秘訣は一貫生産と技術力(1/2 ページ)

YKKではファスナー専用機械だけでなく材料開発や機械に組み込まれる金型やファスナーの専用部品の製造なども自社で行う。この一貫生産を差別化要因に、6つの地域でグローバルにマトリックス経営を実現。それぞれの拠点が、おのおのの強みを生かして事業を展開している。

» 2014年09月10日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 早稲田大学 IT戦略研究所主催「第43回 インタラクティブミーティング(通算第66回目)」に、YKK 取締役副社長である大谷渡氏が登場し、「YKKにおける経営と技術力強化」をテーマに講演。YKKの一貫生産に基づいた競争力の強化と、その継続における取り組みを紹介した。

「一貫生産」という考え方を貫くYKK

YKK 取締役副社長の大谷渡氏

 YKKは1934年に創業、ファスナーやスナップ・ボタン、繊維・樹脂製品などのファスニング事業と、窓・サッシ・ドアといった住宅建材、ビル建材などのAP事業という2つの事業を柱としている。約4万人の従業員が、全世界で71の国および地域で事業を展開。ファスニング事業では、ファスナーの約8割を海外で生産している。

 YKK 取締役 副社長 工機技術本部長の大谷氏は、「ファスナーの専用機械を内製してきたことがYKKの強み。専用機械を世界各国の製造拠点に設置することで、世界中どこででも同一の商品、同一の品質でファスナーを製造することができる。ファスナー専用機械の開発から製造までを担っているのが工機技術本部である」と語る。

 YKKでは、ファスナー専用機械だけでなく、材料開発や機械に組み込まれる金型やファスナーの専用部品の製造なども自社で行う「一貫生産」という考え方を貫いている。この一貫生産も他社との差別化要因の1つ。YKKの経営体制の中核となるファスニング事業およびAP事業の2つの事業を一貫生産で支えるのも工機技術本部の役割の1つである。

 現在、日本をはじめ、北中米、南米、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、中国、アジアの6つの地域でグローバルにマトリックス経営を展開。一般的にグローバル経営といえば、本部や本社が権限を持ち、各社に事業を展開するが、YKKでは創業以来、世界各国それぞれの拠点が、おのおのの強みを生かして事業を展開してきた。

 大谷氏は、「本社の役割は、統括ではなく総括であると位置づけている。地域経営は、日本を除く各地域に地域統括会社を置き、本社の出先機関として各地域を統括している」と話す。しかし、グローバルなマトリックス経営が必ずうまくいくわけではない。マトリックス内で必ずコンフリクトが起きるためである。

 大谷氏は、「縦と横をきれいに分けたつもりでも、役割どおりに動かないのが実情である。パワーバランスなので、力のある人が縦方向にいれば縦方向が強くなり、横方向が強ければ横方向になびく。そこで、縦方向が1番目、横方向が2番目という優先順位を明確にすることで、コンフリクトを防いでいる」と話している。

YKKグループ経営体制

事業の成長の基本は「善の巡環」

 YKKの発展、成長を支えたのは、1959年から開始した海外展開である。現地の会社の成長こそが、YKKの今日につながっているといっても過言ではない。その基本となるのが、創業者である吉田忠雄氏の「善の巡環」という理念である。「“他人の利益を図らずして自らの繁栄はない”という当たり前の精神だ」と大谷氏は言う。

 YKKの海外展開の基本は、利益を最大化することが目的ではなく、地域経済に根ざし、社会に貢献することが最大の目的である。大谷氏は、「多様化が進む現在のグローバル市場において、たった1つの考え方でグローバル経営を推進することは不可能。そこで各地域に任せることが重要になる」と語る。

 本部や地域統括会社が設置されることで、組織の階層が深くなる。そこで強い地域拠点を実現するために、本部や地域統括会社は何をすべきかを日頃から模索している。大事なことは現地の会社が強くなれば、会社全体が強くなるということ。もちろん、一貫生産という思想が重要になることは言うまでもない。

 一貫生産は、最高の品質を保つために最適な材料を自ら作り、設備も自社開発することにある。現在では、必ずしも内製にはこだわらず、競争力の強化を第一に考えた取り組みも行っているが、一貫生産の思想は、YKKの経営の根幹であり、時代が変わっても強化を継続していく。

 「アウトソーシングをする部分も含めて、自社で評価する仕組みが必要。アウトソーシングありきで丸投げとなり、結果としてそれを評価する仕組みがないために失敗するケースをよく目にする。そこで一貫生産という考え方が重要になる。ファスナーという商品で、いかに差別化するかが重要であり、みずから進化させていかなければ差別化を継続できない」(大谷氏)

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