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» 2018年10月01日 08時27分 公開

ICTで課題解決型先進国を目指せ 2030年、日本再生のシナリオとは?

日本経済の復活に欠かせないのは、グローバルの視野に立った課題解決型先進国を目指すという未来像とシナリオだ。「2030年 日本経済復活へのシナリオ」(毎日新聞出版)をまとめた早稲田大学大学院の小尾敏夫名誉教授に話を聞いた。

[浅井英二,ITmedia]
『2030年 日本経済復活へのシナリオ』

 日本人アスリートの華々しい活躍もあり、2020年の国家的イベントに対する期待がいよいよ高まってきたが、新たな産業革命をけん引するだろうICT業界では早くも次の10年をにらんだ戦いが始まっている。2020年の東京では、安心・安全なスポーツの祭典を実現すべく、街中に設置された防犯カメラの動画をAI(人工知能)が監視するなど、最先端のデジタルテクノロジーが駆使されるとみられている。ドローンの群れを東京の空に飛ばして監視する計画まであるらしい。スポーツの祭典を利用したショーケースは実用化に向けた号砲となり、AIをはじめとするデジタルテクノロジーの進化は次の10年でさらに加速、暮らしや仕事は根底から変わっていくだろう。

 GoogleやAmazonをはじめとするネット業界の巨人たちはAIに巨額の研究開発費を投じており、自動運転でも主導権を握ろうとしている。自動車が基幹産業である日本にとってこの戦いは負けられないはず。自動車産業は裾野が広いからだ。2030年までに「加速」「操縦」「ブレーキ」の全てをシステムが行う「準自動走行車」を新車の3割にする目標を掲げ、官民挙げた取り組みが始まっている。

世界でも稀な少子・高齢・人口減少社会

早稲田大学大学院の小尾敏夫名誉教授

 しかし、日本企業の競争力維持には社会的課題も立ちはだかる。例えば、生産年齢人口の減少だ。2030年には日本のさらなる超高齢化が進む。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、日本の人口は1億1600万人に減少、15歳から64歳の生産年齢人口も6700万人となり、比率は58.1%に低下する。少ない人手で高齢者を支える「肩車モデル」に限りなく近づいていく。少子・高齢・人口減少社会は世界でもまれな社会を生み出そうとしている。日本企業は果たして現在の競争力を維持できるのか。

 「経済発展に必要なのはマーケットの大きさだ。しかし、日本のGDPは世界に占める比率が最盛期の14%からわずか4%まで低下している」と小尾教授は警鐘を鳴らす。

 小尾氏は今春、長年教鞭を執った早稲田大学を退職したのを機に「2030年 日本経済復活へのシナリオ」(毎日新聞出版)をまとめたばかり。早稲田大学電子政府・自治体研究所所長やAPEC電子政府研究センター所長としてアジア太平洋諸国の電子行政やデジタル化に貢献しており、この8月には英国を拠点とする国際政策シンクタンクApoliticalによる「世界で最も電子政府に影響力のある100人」にも日本人でただ1人選ばれている。

 超高齢社会ではさまざまな問題が噴出してくるが、既に幾つかは顕在化している。人口の4割が高齢者となれば、社会の活力が著しく失われかねない。バリアフリーの住宅から始まり、安全・安心な街づくりや公共交通機関に至るまで、高齢者でも行動しやすい、移動しやすいユニバーサルデザインに配慮した地域づくりが必須になる。医療や介護でも大きな変革が求められるだろう。

 「少子化・高齢化、人口減少という三重苦に直面する日本だが、それらを逆手に取り、ICTを駆使したイノベーションによって超高齢社会をユーザーに優しい、より豊かな情報社会へと変革できれば、それはチャンスとなるはずだ。国連が決めた「SDG(持続可能な開発目標)に符合した課題解決型先進国として世界に2030年の日本モデルを売り込むことができる」と小尾氏。

モノづくりを磨き続けることが再生の切り札

 小尾氏の「2030年 日本経済復活へのシナリオ」には、同氏の大隈講堂での最終講義に合わせて開催された記念シンポジウムも収録されている。立川敬二元JAXA理事長、早川茂トヨタ副会長をはじめ13人に上る政産官学の有識者が参加したこのシンポジウムでは、デジタル未来社会にあっても日本が大切にすべきは「モノづくり」だという考えが多く聞かれた。それは裏を返せば、日本のモノづくりが弱体化していることへの危機感だ。JR東日本の清野智顧問(登壇時は会長)もそうした危機感を抱く経営者の一人だ。

 「高速鉄道の技術もあるが、特に注目しているのは都市鉄道だ」と清野氏は話す。スマート(デジタル)シティが世界の一大ブームとなりつつあるが、例えば、アジアの新興国、ベトナムでも20都市でその構想があり、ハノイ市では2030年までにスマートシティに転換するという目標を掲げている。優先すべき分野として、「健康」、「教育」と並び、「交通」と「観光」が選ばれている。これはASEAN大都市が解決すべき共通の課題でもある。

 「東南アジア諸国へ鉄道技術の移転や輸出が進んでいるものもあり、これらは日本の技術を広め、そして自らの技術を高めていくきっかけにもなり、再生への切り札の一つになるのではないか」とも清野氏は話す。

 小尾氏は「安全・安心はもちろんのこと、車両の省エネ化や乗り心地の追求にはモノづくりの執念を感じる。鉄道は公共性が高いため、採算の悪い、高齢化と過疎化が進む地方路線も維持しなければならない中、変革の道をICTやビッグデータで切り開こうとしている」と話す。さらに、「情報革命と超高齢社会の融合による近未来社会はAIなどの破壊的技術進歩で予想を超えたスピードで進化する」そして「経済・技術・軍事の3大地球規模格差を全力で解消しないと、人類は未曾有の危機を迎える」と小尾氏は警告する。

 日本経済の復活に欠かせないのは、グローバルの視野に立った課題解決型先進国を目指すという未来像とシナリオだ。

小尾敏夫(おびとしお)

早稲田大学名誉教授・電子政府自治体研究所顧問

学歴は慶応大学で学士、修士(共に経済学)、早稲田大学で国際情報通信学博士を授与。職歴は国連企画官、コロンビア大学研究員、労働大臣秘書官、早稲田大学大学院教授などを歴任。専門はICT,電子政府、CIO。海外でITU事務総局長特別代表(2期8年)、OECDシルバーエコノミー委員長、APEC電子政府研究所所長、世界経済フォーラムの未来政府委員、国際CIO学会世界会長(3期9年)などの要職、国内では内閣府IT戦略本部委員、総務省電子政府推進員協議会会長、情報通信ネットワーク産業協会顧問、などを務めてきた。ジョージワシントン大学(米)、北京大学(中)、サンクトぺテロブルグ大学(露)などで客員研究員も。総務大臣賞(2度)、前島密賞、ITU功績賞、シンガポール大学国際貢献賞などを受賞。著書は「日米官僚摩擦」(講談社)や今年6月発刊の「2030年日本経済復活のシナリオ」(毎日新聞出版、共著)など30冊以上。


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アドバイザリーボード

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆