長い低迷の時代を経て、世界のトップに手が届くところまで復活してきた企業――それを維持しようと攻めの姿勢をとる経営層と、守りの姿勢が染みついたIT部門との間のギャップが大きくなっている。ウイングアーク協創企画推進室室長の岡政次氏が、日本企業を元気にする企業システムについて語る。
そんな絶頂期に私は、長く親しんだ会社を辞めて今の会社に転職した。会社の中にいると、「そんなものかな」と思っていたことが、客観的に見られる立場になると、「やっぱり変だ」と気づくのもだ。私の連載では、そのような点をお話ししていきたい。
にわかに勝ち組と評されるようになった企業というのは、例えば、プロ野球の「楽天ゴールデンイーグルス」が首位に立って優勝を狙える位置まできたようなもの。「これは、何かの間違いだ、本当に実力なのか?」となかなか自分たちの力が信じられない。
それと同じようなことがビジネスの世界でも言える。
今まで低迷していた企業が急激にシェアを伸ばし、業界でトップシェアを獲得したが、社員はそれに慣れていない。また入社以来真面目に地道に定年まで勤めることだけを考えて働いてきた人たちは、急に考え方を変えられるわけがない。
一方で、経営陣はここぞとばかりに積極的に設備投資をする。初めて手にした首位の座を維持するために“攻める”ことが勝ち続けるための最善策だからだ。開発、生産、営業部門は当然、攻めの姿勢でモチベーションも高まる。そして、売れることがそのまま評価に跳ね返ってくる。作ったら作っただけ売れる、いかに速く生産し、素早く市場に届けるか、これを実現することが使命になる。非常に分かりやすい目標だ。
間接部門はというと、様子が異なる。守りの姿勢が強くなるのだ。低迷時代が長く続いたこともあり、どうしても保守的な風土が生まれる。経費削減、コンプライアンスという守りの姿勢、いわゆる「減点評価主義」「事なかれ主義」が染み付いているからだ。
大企業に就職し、終身雇用が保障される安心感がこの守りの姿勢のモチベーションになっていると言える。そのためには「少しぐらい窮屈な思いとか、理不尽な仕事も我慢しよう」という気持ちになる。長い歴史のある企業文化の中で、突然、成果主義とか業務革新、若手・女性の登用と言われても、どこまでそれを信じて本気でやっていいのか疑心暗鬼になり、「真に受けて本気でやって、失敗するとまずい」と、まずはポーズだけ取ろうとする。
IT部門も同様に、テーマは攻めているけど、中身を掘り下げていけばいくほど安全策を取るようになる。突然、グローバルSCMとか、連結経営支援、連結PSI(Production、Sales、Inventory:生産、販売、在庫の調整)、集中購買、製販一体化、一貫生産サポート、短期海外拠点展開などと言われても「誰が、どこの業者を使って、どのように開発するか」といった、落とし所を見つけることばかりを考えて走り出す。
とはいえ、会社の業績が好調だから、IT予算は前年比の2倍、3倍に積み上がる。こんなに予算を与えられても使いきれるわけがない。そして、外部のリソースを何とか確保し、右から左に仕事を流していく「手配師」のような役割が主流になる。沢山の予算を使って、外部コンサルタントに委託して、戦略的なシステムを短期で構築する。これがIT部門のエリートがすべき仕事となってしまったわけだ。口では全体最適と言いながら、大規模な個別最適システムを量産し続ける。これが現実だ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授