「マルチウィンドウ消費」によって、企業は消費者の購入ステップをコントロールできなくなってきた。IT消費時代のマーケティングには、新しい顧客ファネルモデル「AISTAR」と「マーケティングダッシュボード」が必要だ。
野村総合研究所(NRI)が行った国内の満15〜69歳の男女個人を対象とした「生活者1万アンケート」によると、ITを駆使した消費スタイルが浸透したことが見てとれる。
消費者は、グーグルの的確な検索手段とアマゾンのレコメンデーションなどの機能をフルに活用し、商品に対する情報(良い点・悪い点、価格、販売ルートなど)を獲得していくようになったのだ。
従来は、消費者が商品を購入するまでにAIDMA(Attention:注意、Interest:関心、Desire:欲求、Memory:記憶、Action:行動)が時間差で起こっていたが、PC、テレビ、ケータイなどから認知→探索→購入を同時に行う「マルチウィンドウ消費」によって、企業はそのステップをコントロールできなくなってきている。
加えて、ネット上の情報は異なる意見や評価、嘘の情報などが玉石混交なため、最終的に購買を決断するのが消費者自身という、「自己責任消費」の文化が日本にもできつつあるという。
このようにITで進化しつつある消費者に、企業はどのように対処すれば良いのか。
NRIサービス事業コンサルティング部上席コンサルタントの塩崎潤一氏は、AIDMAが崩壊した顧客化ステップを見直し、IT消費時代に合致した新しい顧客ファネルモデルである「AISTAR」(Awareness:認知、Intention:目的、Search:検索、Trial:試行、Action:行動、Repeat:継続)を推奨する。インターネットが大衆化した時代には、検索、お試し、反復購入の要素が大きく関るようになるからだ。
そのほかにも「マーケティングダッシュボード」(フィリップ・コトラー氏が自著「マーケティング10の大罪」で言及)の必要性を強調する。マーケティングに関する指標(認知率、配荷率、リピート率など)を体系的に見える化し、マーケティング担当者が的確な意思決定をするために必要な情報提供ツールとして、アメリカのサービス業やメーカー、ホテルなどが取り入れ始めている。
マーケティング戦略が複雑性を増した今、最近話題になったマーケティングROI(売り上げに及ぼす要因を体系的に整理してモデル化し、1つの代替指標で効果を測定する手法)でも、1つの指標で評価するのは現実的ではないという意見もある。また、自社で取得したマーケティングデータや流通チャネルで取得した消費者データなどが複雑かつ膨大になりすぎた。
マーケティングダッシュボードは、数々のマーケティングデータから理想的なデータを選別・抽出し、指標化することで、企業のマーケティング戦略のPDCAを回す基礎になると期待される。日本での普及が待たれるところだ。
「消費者がITを駆使して消費を楽しむようになったのだから、企業もそろそろ本気でITを駆使したマーケティングに取り組むべき」(塩崎氏)
自社の強み・弱みをしっかりと把握し、今後さらに大衆化するIT消費の特徴に応じたきめ細やかなマーケティング戦略が企業に求められている。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授