企業トップの任務は何か。最近の次々起こる企業の不祥事を考えるとピーター・ドラッカーが、「組織は社会の機関である。外部環境に対する貢献が目的である。しかるに組織が成長するほど、特に成功するほど、エグゼクティヴの関心、精力、能力は、組織内部の事象に占領され、外部の世界における本来の任務と成果が忘れられていく」(「経営者の条件」ダイヤモンド社)と指摘するように「社会貢献」を前面に押し出したくなるが、トップの任務は企業の「存続と発展」であろう。
そのためにいろいろな戦略が組まれ、戦術が実行されるのだろうが、そこにITを駆使するか否かはトップの判断である。ITは、あくまでも目的達成のための手段であるから、敢えてITに頼らなくても目的が達せられるなら、それもよしとすべきである。ITを導入すれば目的が達成されると単純に考えるのは間違い、と言えば、「そんなことは当たり前だ」と答える経営者は多い。しかし現実の導入を見ていると、トップから現場スタッフまで、最終目的が何なのかが忘れ去られ、システムの稼働が目的化してしまうケースは吐いて捨てるほどある。企業の存続と発展にブレーキをかけるようなIT導入をするぐらいなら、IT抜きで何ができるのかをまず考えるべきだ。
しかしIT抜きの施策に限界を感じたら、素直にITを有効な手として検討する対象にすべきだろう。
ITを選択するからには、トップとしてITを理解し、ITに適切に関与しなければならない。ITを理解せず、適切な関与をしないために、多くのトップは間違いを犯してきた。
IT投資は、製造設備や物流の投資と比べて内容も効果も目に見えにくいので、トップはつい関与を避ける。目の前でラインが動き、製品がこれまで以上のスピードで出荷される、といったような「絵」は見えない。ソフトウェアなど全く分からないことなので、専門家に任せっ放しにしたくなる。一方、ちょっと尋ねても専門用語が飛び交うので、つい敬遠したくなる。しかし目に見えないといえば、顧客の心理、マーケットの動き、世の中の流れ、さらには社員のモチベーションも含めて、すべて、目に見えないことだらけだ。こうしたことに関しては、たとえ「見えないモノ」であっても経営者は本能的に必死でその中身を探ろうとする。システムも見えないけれど、中身を探ろうと努力すれば、何がベストの選択なのかは見えるようになってくる。
また逆に、ITに対する中途半端な知識が災いして、ITに干渉し過ぎるトップもある。発言がまったく筋違いであっても、トップの発言は部下に強力な影響を与え、プロジェクトの方向性を決定してしまう。間違っていればたとえ社長の指示であっても、正す人間が組織の中で発言力があればいいが、いつもそうしたクッションがいるとは限らない。せっかく経営改革のための手段として選択したからには、有効に使いたい。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授