満足を超える「感動」で差別化 ザ・リッツ・カールトンの戦略(1/2 ページ)

外資の攻勢によって競争がますます激化するホテル業界。その中にあって、ザ・リッツ・カールトンは質の高いサービスを武器に多くのファンを獲得している貴重な存在だ。CSの向上は、収益面以外の効果にもつながるようだ。

» 2008年02月18日 09時14分 公開
[岡崎勝己,ITmedia]

「感動」を生むサービスでファンを獲得

 ザ・リッツ・カールトン――顧客サービスにまつわる多くの「神話」を生み出してきたホテルとして知られる存在だ。

 1つの有名なエピソードがある。米国・カリフォルニア州の海辺にあるザ・リッツ・カールトンで、従業員が1人の若い男性から椅子を貸してほしいと懇願された。理由を聞くと、海辺で彼女にプロポーズをするためとのこと。そこで従業員は、自らの判断で急ぎタキシードに着替えるとともに、浜辺には椅子とテーブルを準備。テーブルの上には一輪の花と冷えた上等のシャンパンを用意し、テーブルの傍にはハンカチを敷いた。プロポーズの際に跪けるようにするためだ。

 こうした「感動」を生むサービスが評判を呼び、ザ・リッツ・カールトンは世界中で多くのファンを獲得している。

 国内でも同ホテルに対する評価は高く、1997年5月に大阪で開業したザ・リッツ・カールトン大阪で営業統括支配人を務め、現在、HAYASHIDA-CS総研の会長職にある林田正光氏によると、300床クラスのホテルの多くは年間売上高が約70億円程度に留まっているのに対して、292床の同ホテルでは実に120億円という高業績を達成したという。

 大塚商会は2月6〜8日、ITを活用した業務支援をテーマにしたイベント「実践ソリューションフェア2008」を開催した。同イベントで講演を行った林田氏は、顧客満足度(CS)の重要性について話した。多くの市場が成熟化する中で、CSは次の競争を勝ち抜くための切り札といえそうだ。

個々のスタッフが智恵を絞りCS向上を実現

 ザ・リッツ・カールトン大阪では、開業にあたって約600億円にのぼる大規模な設備投資を行った。顧客の舌を満足させられるよう、腕利きのシェフもそろえた。ただし、林田氏によると同ホテルのこだわりは、あくまでも従業員のサービスにあるという。

 では、なぜサービスにこだわるのか。その理由は明解だ。

 「ホテルは何度も利用してもらうもの。設備や料理でも確かに感動してもらえるが、利用を重ねると感動が薄れてしまう。だが、サービスにおいては感動が薄れることはない」

 ザ・リッツ・カールトンでは、サービスによって他のホテルと差別化を図るとともに、満足以上の「感動」を与えられるサービスを実現すべく、スタッフ教育を徹底している。「商品の差別化を図ることが難しい他の業界でも、顧客サービスの重要性は共通するはず」と、林田氏。

 だが、サービス向上に向けたスタッフの意識改革は一筋縄ではいかなかったようだ。

 開業にあたり、4000名の応募者の中から600人のスタッフを厳選して採用し、1カ月以上をかけてトレーニングを実施。その後も顧客にとっての快適さとは何なのか、を具体的にかみ砕いてスタッフに伝えた。サービス向上にはスタッフの人間力を磨くことが不可欠と考え、一流のサービスや製品に触れることで感性に磨きをかけるよう促してきた。

 「当初、私自身も感動につながるサービスとは何かを十分に理解できていなかった。しかし、スタッフとともに試行錯誤を重ねることで、“声にならない顧客の要求を先読みする力”という解にたどりつくことができた。満足できるサービスレベルに達するまで、約3年が必要だった」

 スタッフがサービスを行うにあたり共通の価値観のベースとなっているのが、全リッツ・カールトンのスタッフが携帯している「クレド」と呼ばれるカードである。クレドにはスタッフの行動の指針となる使命がまとめられている。

 ただし、クレドに記されているものはあくまでも基本方針。実際の現場では個々のスタッフが自分なりの最適なサービスを提供する必要がある。その意味で、同社の顧客サービスがこれほど高く評価されているのは、各スタッフが顧客サービスの向上に頭をひねってきた成果ということができるだろう。

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