社員のやる気を引き出す仕組みも整備されている。同ホテルでは3カ月ごとに、社内の全32セクションからそれぞれ最も評価されるべきスタッフを選出し、その中から5名を「ファイブスター社員」として表彰する制度を設けている。ファイブスター社員は胸にバッチを付けることが許され、客を含めて誰もがそのことを把握することができる。
「誇りを持って働ける職場環境を整えれば、スタッフのモチベーションを向上させ能力をさらに引き出せる。表彰制度は社員の行動を積極化させる仕掛けの1つ」
顧客サービスにはスタッフのホスピタリティを欠かすことができない。それは次の8つから成るという。(1)感謝の心、(2)誠実な心、(3)思いやりの心、(4)謙虚な心、(5)愛の心、(6)忠誠の心、(7)使命感の心、(8)奉仕の心――だ。これらを基にしたザ・リッツ・カールトンならではのサービスポリシーが、「ノーと言わないサービス」である。
「要求に対して、機械的に対応することは誰でもできるだろう。しかし、それでは満足なサービスとは決して言えない。たとえ無理な頼みごとでも、単にノーというのではなく、代案を考えることが求められるのだ」
全客室が予約で埋まっている日、宿泊できないかと電話を寄せてきた顧客に対しては、まずは感謝の心を伝えるとともに、残念ながら予約で埋まっている旨を伝えるとともに、代わりにこちらでホテルの手配をさせてもらえないかと相談する。こうした、顧客の側に立ったサービスが感動を生み、ザ・リッツ・カールトンのファンを生み出すわけだ。
そして「口コミ」によって、そのサービスの良さを広げ、客足をさらに獲得するという取り組みが、同社の販売戦略の柱となっている。顧客1人1人の嗜好を綿密に記録しているのもまさにそのため。他のホテルの多くがサービス料を10%と設定しているのに対して、13%と高めに設定できているのもサービス向上に務めてきた賜物だ。
CSの向上はザ・リッツ・カールトン収益面以外でもさまざまなメリットをもたらしている。
「CSが高まれば企業価値が向上し、良い人材が集まるようになる。必然的に安定したサービスの提供が可能になることに加え、企業防衛にもなる」
バブル崩壊後、多くのホテルが赤字に陥り、買収によってその名を変えざるを得ないところも少なくなかった。CSを高めることができれば、利益を上げる仕組みが整えられ、そうした事態を免れることができるというわけだ。
大阪に続き、2007年3月には東京ミッドタウンで開業。ここでも感動を呼ぶサービスがさまざまな媒体で取り上げられている。ひいては、他ホテルとの差別化にもつながっている。
ともあれ、いずれの企業にとっても、ファンはいわば社外で自社のメリットを発信する営業スタッフともいうべき大切な存在だ。その育成に戦略的に取組む同社から学ぶべきことは、多くの企業にとって少なくなさそうだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授