満足を超える「感動」で差別化 ザ・リッツ・カールトンの戦略(2/2 ページ)

» 2008年02月18日 09時14分 公開
[岡崎勝己,ITmedia]
前のページへ 1|2       

顧客の無理にもノーとは言わない

 社員のやる気を引き出す仕組みも整備されている。同ホテルでは3カ月ごとに、社内の全32セクションからそれぞれ最も評価されるべきスタッフを選出し、その中から5名を「ファイブスター社員」として表彰する制度を設けている。ファイブスター社員は胸にバッチを付けることが許され、客を含めて誰もがそのことを把握することができる。

 「誇りを持って働ける職場環境を整えれば、スタッフのモチベーションを向上させ能力をさらに引き出せる。表彰制度は社員の行動を積極化させる仕掛けの1つ」

 顧客サービスにはスタッフのホスピタリティを欠かすことができない。それは次の8つから成るという。(1)感謝の心、(2)誠実な心、(3)思いやりの心、(4)謙虚な心、(5)愛の心、(6)忠誠の心、(7)使命感の心、(8)奉仕の心――だ。これらを基にしたザ・リッツ・カールトンならではのサービスポリシーが、「ノーと言わないサービス」である。

 「要求に対して、機械的に対応することは誰でもできるだろう。しかし、それでは満足なサービスとは決して言えない。たとえ無理な頼みごとでも、単にノーというのではなく、代案を考えることが求められるのだ」

 全客室が予約で埋まっている日、宿泊できないかと電話を寄せてきた顧客に対しては、まずは感謝の心を伝えるとともに、残念ながら予約で埋まっている旨を伝えるとともに、代わりにこちらでホテルの手配をさせてもらえないかと相談する。こうした、顧客の側に立ったサービスが感動を生み、ザ・リッツ・カールトンのファンを生み出すわけだ。

 そして「口コミ」によって、そのサービスの良さを広げ、客足をさらに獲得するという取り組みが、同社の販売戦略の柱となっている。顧客1人1人の嗜好を綿密に記録しているのもまさにそのため。他のホテルの多くがサービス料を10%と設定しているのに対して、13%と高めに設定できているのもサービス向上に務めてきた賜物だ。

ファン獲得が差別化の重要な要素に

 CSの向上はザ・リッツ・カールトン収益面以外でもさまざまなメリットをもたらしている。

 「CSが高まれば企業価値が向上し、良い人材が集まるようになる。必然的に安定したサービスの提供が可能になることに加え、企業防衛にもなる」

 バブル崩壊後、多くのホテルが赤字に陥り、買収によってその名を変えざるを得ないところも少なくなかった。CSを高めることができれば、利益を上げる仕組みが整えられ、そうした事態を免れることができるというわけだ。

 大阪に続き、2007年3月には東京ミッドタウンで開業。ここでも感動を呼ぶサービスがさまざまな媒体で取り上げられている。ひいては、他ホテルとの差別化にもつながっている。

 ともあれ、いずれの企業にとっても、ファンはいわば社外で自社のメリットを発信する営業スタッフともいうべき大切な存在だ。その育成に戦略的に取組む同社から学ぶべきことは、多くの企業にとって少なくなさそうだ。

関連キーワード

顧客満足 | 人材 | 口コミ | 経営 | モチベーション


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆