ITの飛躍的な発展は経済のグローバル化を加速させる一方だ。このうねりを乗り越えるために、富士ゼロックスが気が付いたものとは?
『フラット化する世界』は、世界的なベストセラー作家であるトーマス・フリードマン氏の著書の1つだ。この著書の中で同氏は、ITの飛躍的な発展が、国家、企業、個人というあらゆるレベルの関係をフラット化し、このうねりを乗り越えることが21世紀の繁栄につながると説く。
NECが12月5〜7日の3日間で開催した「C&Cユーザーフォーラム」で講演した富士ゼロックス取締役相談役の有馬利男氏は、経営改革の取り組みの中で、このうねりを乗り越えるヒントを得たと語る。
「経済のグローバル化が進む中で、地球温暖化を回避するために各国の協議が進められている。その影響は当然、企業にも及ぶ。企業は世界の趨勢にもはや無関心ではいられない」
これからの企業は、過去の利益至上主義から脱皮し、新たな意思決定の指針を見出すことが強く求められているという。
富士ゼロックスは1995〜2001年度にかけ、大きな経営危機に直面した。売上高こそ上昇基調にあったものの、2000年度の利益は1996年度の60%程度にまで低下。こうした状況を打開すべく、同氏は米国の関連会社の社長から富士ゼロックスに呼び戻された。
有馬氏によると、富士ゼロックスの使命は「世の中に有用な価値を提供すること」と言う。利益はあくまでも、価値を提供するための手段に過ぎないという考えだ。同社がこうした方針を掲げるようになった背景には、過去の経営改革を通じた体験が大きく影響している。
事業を立て直しを命ぜられた有馬氏は、2004年度からの3年掛かりの中期計画「V06経営計画」を策定し、改革に取り掛かった。11のリストラ系プロジェクトと、5つの成長に向けたプロジェクトから成る抜本的な改革だ。
今では同社の製品の8割は中国で生産されているが、生産拠点の移管もその1つだ。また、チャネル改革も実施した。全国に合弁で設立していた34の販売会社をすべて100%子会社化し、販売会社で営業からアフターサービスまで行えるよう、本社のエンジニアを販売会社に移籍させ、顧客のビジネスプロセスにおける悩みを解決するソリューションを取りそろえた。「売上を上げる販売会社」「高付加価値を提供する本社」という図式をつくり上げた。
「従来のハコ売りとアフターサービスで稼ぐ仕組みから、顧客の経営課題を解決できる仕組みに組織構造を変えた。得意技を変えて、事態への対応を図った」と、同氏は言う。
このプロジェクトは必ずしも円滑に進まなかった、と有馬氏。「組織の再編はいわば、企業の“器”を変えるという話。器を変えたことで、社員が仕事の進め方を変える必要があった」からだ。
プロジェクトの過程では成果が上がらない時期が長く続いた。
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明治学院大学 経済学部准教授