店の人手不足をロボットで補う取り組みが、新たな段階に入った。
店の人手不足をロボットで補う取り組みが、新たな段階に入った。従来のストアロボットは配膳や掃除などの単一業務に特化していたが、AI(人工知能)技術を備えて、品出し、在庫管理、販促活動など複数の作業をこなすロボットが登場し、売り場で働いている。小売店に最適化した「Armo(アルモ)」を開発したベンチャー企業のMUSE(ミューズ)(東京都中央区)は、3月に米国で開かれた世界的なビジネス催事、サウスバイサウスウエスト(SXSW)のロボテック部門でファイナリストの5社にも選ばれた。ロボットが同僚になる日が来た!?
「扉が開きます」。飲料の箱を積んだロボットが周囲に注意を呼びかけながら、倉庫から売り場に出る。器用に角を曲がり、品出しの位置にピタッと停止。もう1台には店のマスコットと特売菓子が乗って、店のテーマ曲を流しながら進んでくる。「何!?」「すごい」とお客が足を止めた。
関東に145店を展開する食品スーパーのベルク(本社・埼玉県)では昨年、2店舗でArmoの運用実証を行い、成果が確認できたとして今年2月、10店舗に導入を拡大した。「今、主に任せているのが自動搬送による品出し。重労働ですし、人がやらなくて済む仕事はロボットに任せたい。一緒に働くパートナーとしての活用を目指しています」と、担当取締役の原田裕幸システム改革部長(49)。ロボット本体は直径32センチの円盤型で10キロと小型だが、セットしたカゴがロボットの重心となる独自設計(特許出願中)で安定性を確保し100キロまで運べる。
さまざまな機能部品を組み合わせることで、商品棚を撮影して欠品をチェックしたり、マーケティングデータを収集・解析したりするなど現在5種類の業務が可能。「先ほどお見せしたように、お菓子を搭載した販促ロボットが店内を回ると、子供が寄ってきて通常の3〜4倍売れるなど、お客さんとの新しいコミュニケーションも図れる」
ベルクでは労働人口減少問題への対応としてロボットに着目し、2年前にMUSEと契約した。パート従業員でもスマホで操作できるハンドリングの良さ、パワー、安全性を重視して決めたという。「1台につき最低でもパート1人分働いてくれれば費用対効果が見合うが、クリアしている店もあればまだの店もある。やらせたい仕事はたくさんあり、今後の運用で生産性を上げていきたい。中長期的な視点でとらえています」と原田取締役。
レンタル式で料金は非公表だが、MUSEによる24時間フル稼働を想定した試算では、ロボットの時給は約100円となっている。
「人手不足解消だけでなく、人件費も削減できる」という笠置泰孝社長(41)は公認会計士でもある。一橋大卒業後、監査法人などを経て、20年前の大学時代に愛知万博で触発されたロボット業界に転職。物流倉庫で働く自動運転のロボットを開発、量産化して延べ300社に導入する実績を挙げた。その経験の中で「小売店への転用を求める声がとても多く」、令和4年にベンチャーキャピタルなどの出資を受けてMUSEを創業した。
小売店に特化したArmoは日本製で現在、ベルクを含め量販店5社が導入しているほか商談中の企業も多数。SXSWでの評価により、米国企業からの引き合いも増えている。「米国は人件費が日本の2、3倍と高いうえに、店舗も大型なのでより効果が発揮できる」と笠置社長。多国籍の人材を雇用し、すでに米国法人も設立している。
東京商工リサーチ調べによると、昨年の人手不足による倒産は前年比約1.8倍の289件にも上り、ロボットと働くのは時代の趨勢(すうせい)だ。仕事の愚痴を聞いてくれて、的確なアドバイスもしてくれるロボット……そんな同僚も待ってます!(重松明子)
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明治学院大学 経済学部准教授