競争力のある現場は「夢の見える化」から――ローランド・ベルガー遠藤会長(2/2 ページ)

» 2008年02月20日 11時11分 公開
[岡田靖,ITmedia]
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強い現場を実現するために不可欠な「見える化」

 トヨタや花王などのように、現場力が非常に高く、イノベーション企業の代表格のように言われる企業は「問題大好き人間」の集合体である、と遠藤氏は言う。

 「問題のない企業、現場は存在しない。重要なのは、そうした問題に現場がどう向き合うかだ。トヨタや花王は『問題大好き人間』の集合体。問題を見つけては、喜んで解決に取り組む。改善や改良は現場の日常的な思考トレーニング。このような考える現場は、いずれ大きなイノベーションにつながるだけでなく、大きなトラブルや不祥事も起きにくいからリスク管理にも影響する」(遠藤氏)

 そのような強い現場を実現するために必要な条件として、遠藤氏は以下の7つを挙げる。

  1. 企業哲学としての「現場力」(共通の根っこ/DNA)
  2. 脱・事なかれ主義(健全な対立関係)
  3. 主権在現(失敗する権利、学習する現場)
  4. 自律的サイクルを埋め込む(PDCA)
  5. 見える仕組み(あらゆるものの「見える化」)
  6. オルガナイズ・スモール(自立心をもった小さな組織体)
  7. 継続する力(粘り、執着、愚直)

 この中でも、遠藤氏が特に重視すべきだとしているのは、「見える化」だ。

 強い現場の例として挙げられるトヨタや花王では、見えるようにするためのすさまじい執念があると言い、そのこだわりの理由を示す、トヨタの渡辺捷昭社長の以下のような言葉を紹介した。

 「成長しているときは問題点が潜在化して見えなくなる。開発や調達、生産、販売など各部門が抱えている兆候を『見える化』し、何が足りず何を補強すべきなのかを明確にする」

 見える化というキーワードは、すでに広く使われる言葉になった。ただし、多くは経営サイドで見ることを意識して用いられているのに対し、遠藤氏は現場で見ることも重要だとする。前者は「管理の見える化」だが、後者は「自律の見える化」で、現場自体が現場を知るためのものだ。それこそがオペレーションの基盤になる、と遠藤氏は言う。

 「自律の見える化なしに管理の見える化だけを強化しても、見える化は定着しない。見える化は、社内に共通認識をつくる“くせ”を明確にし、そして組織が劣化していないかどうか現状をモニタリングすることが重要な役割となる」(遠藤氏)

粘り強い継続がもたらす、組織の“くせ”

 遠藤氏は、見える化をきっかけとして、組織内の対話の密度を高め、そこからさらに良い影響を連鎖させていくことが重要だとした上で、そういった取り組みを粘り強く続けることが必要なのだと強調した。

 「現場力を付け、それを伸ばし、さらに成果を上げるには組織の“くせ”をつけなくてはならない。『カイゼン』は、英語にすると『Continuous Improvement』。継続的に改善していくというニュアンスがある。一過性の活動で終わるのではなく、継続させ、持続させることが不可欠ということを意味する」と遠藤氏。

 組織の“くせ”をつけることの大切さを、遠藤氏は大手金属メーカーのX社の例で説明する。X社は独自の高い技術が競争力の源泉で、いくつものカテゴリー・チャンピオンの座を誇る。とはいえ、技術力だけの差別化では競合に肉薄される危険がある。そこで社長は、これまで手薄だった「納期」を新たな組織の“くせ”として取り入れることにした。

 「社長は、年頭挨拶においても毎回、納期を語ることにこだわった。いろいろと言いたいことがあったが、“くせ”をつけるため一点に絞ったのだ。納期厳守、スピードの追求を社員全員が常に自覚するような施策を打って、行動し続けた結果、X社は世界一の納期を標榜するまでになった」(遠藤氏)

 また、「地道に真面目にコツコツやるだけだよ」と豊田章一郎名誉会長が語るほどカイゼンを続けているトヨタのほか、画期的な製品がモノになるまで20年あまりの長年にわたる開発を繰り返してきたキヤノンや、故本田宗一郎氏が宣言してから40年以上も経てようやく航空機事業をかたちにしたホンダ、社長以下現場全員が一体となって40年間ものQC活動を続けてきたデンソー、毎週1500人のOFC(オペレーショナル・フィールド・カウンセラー)を全国から集めて会議し続けているセブン-イレブン・ジャパン――などの強い企業に共通するのは、ひたすら地道な活動を「ねばちっこく」続けてきた点だ。

 「10年、愚直に続ければ、“くせ”になる。小さな階段を上がり続ければ、そのうちブレイクスルーが訪れる。多くの会社は地道な努力をすることなく、飛躍的な革新を求めるが、そうではない」

 「地道な取り組みは、理想があるからこそ続けられる。最も重要な見える化は、夢・思い・志の見える化。旭山動物園の奇跡は、飼育員たちが描いた14枚のスケッチから始まった。夢の見える化こそが、現場の推進エンジンとなる」

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