連載
» 2008年02月22日 09時00分 公開

西原春夫 日本を危うくする教育の平等主義(後編)西野弘のとことん対談(2/2 ページ)

[ITmedia]
前のページへ 1|2       

「6・3・3制」の弊害――大学院大学こそ世界一流への道

西野 有馬先生は何と答えられました?

西原 ニヤッと笑って「その通りだけど、あなた、東大総長だったらできますか」と(笑)・・・・・・。確かにそうなんですよ。国の研究機関は、とりわけ科学技術の分野は東大が多かった。

 例えば三鷹の天文台。東大の付置機関だったことに他の国立大学や私学から文句が出て、国の大学共同利用機関に改められました。今や高エネルギー物理学研究所も宇宙科学研究所も、各大学が平等に利用できる。が、その結果、東大の研究能力が落ちたことも事実なんです。だから、東大は国の研究機関に付属した大学院大学になるべきなんです。

西野 学部と大学院を分ければ、大学はますますマネジメントを問われますね。いま全国に大学は600校ぐらいあって、私はその2-3割はいずれ倒産すると主張して来たんです。間もなく大学は淘汰の時代に入る。

西原 そう思いますね。個性あるマネジメントが必要なんです。戦後の学制は教育の平等を追求して、それはそれで意味はありましたが、英才教育が希薄になってしまった。

 この平等主義が、とりわけ日本の科学技術の発展を遅らせたと思います。隠れた英才は、これはもう特別な存在なんですよ。偏った教育はいけないが、他の学生と同じにしてはいけない。能力があれば、中学生でも大学に入れるくらいの英才教育があっていい。でないと、日本の科学技術立国としての将来は危ういですよ。

西野 なるほど。確かに個性とか大事だと言いながら、能力は皆同じという考えはそもそもおかしいですよね。1人として同じ人間はいないわけですから。

西原 戦後の高度成長を支えたのは、実は戦前の教育を受けた人々でした。旧制高校の寮生活を経験した経営者やエンジニア、また職人制度に育まれた技能者が引っ張ってきたんです。戦後教育の世代の時代に入ったのは最近で、日本はどうなっていくのか、非常に心配です。技術立国を維持するには際立った英才教育が不可欠です。隠れた英才は必ずいる、そう思います。

西野 最後に「アジア平和貢献センター」についてお伺いします。国際政治や外交がご専門ではない先生が、NPOを立ち上げられた動機は何でしょう。

西原 2つあります。1つは日本は平和憲法をもちながら、一国平和主義に陥っているのではないか、という疑問です。キリスト教世界とイスラム教世界が対立する中で、そこに割って入るのは日本や中国、韓国など北東アジアの国々、すなわち、多神的な寛容の世界観をもつ民族の使命ではないか。ひと言でいえば、覇道をやめ、王道でいく、そういう平和構築の拠点が必要だと思うんです。もう1つ、戦争は究極の犯罪ですね。考えてみれば、戦争と平和は刑法学者である私の研究対象なんです。

西野 外交の世界では戦後60年経っても日中・日韓の関係を修復できない。そういう時、NPOの活動は重要ですね。

西原 いや、まだ60年なんですよ。韓国へ行くと350年前の豊臣秀吉の朝鮮征伐をさんざん責められる。それほど被害者の復讐心は根深いんです。先の戦争は当事者がまだ生きています。たった60年しか経ってない、そこから出発して二度と愚劣な戦乱は招かない、という多国間の共同作業が必要です。それは、あの8月15日の私の原体験を昇華することでもあります。

西野 本日は貴重なお話、ありがとうございました。

対談を終えて

 「グローバリゼーションとは、お互いの価値観を認め合うこと」――。

 西原先生は以前、こう言われたことがある。早くから中国・韓国との学術交流に努めて来られた先生らしい言葉だが、それは大学の世界に限ったことではない。かつて自動車や半導体の集中豪雨的な輸出が、日米通商摩擦を引き起こしたように、国家も企業も、相手国の歴史・風土を理解しなければ経営できない時代になった。

 その多国間協調の時代に、80歳近い先生がアジアの平和構築に乗り出された動機が、終戦の原体験にあることは繰り返すまでもない。自ら“天命”という、不正入試事件後の早大総長就任も、また英才教育の不在を指摘し、日本の将来を憂う危機感も、冷徹な歴史認識に培われたクライシス・マネジメントの能力に裏打ちされていると言える。

 刑法学といえば、“性悪説”に基づく罪と罰の厳格な学問という印象をもつが、「愛国少年の頃、アジア人を当然のように蔑視していた自分が許せない」と述懐する先生の、人間に対する眼差しは優しい。その人柄も、60年前の原体験が育んだものだろうか。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆