連載
» 2008年02月28日 09時00分 公開

岐路に立つ日本のコンテンツ産業(前編):日本のアニメは本当に世界一? 本気の世界戦略が生き残りのカギ (2/3)

[岡崎勝己,ITmedia]

――何が難しくさせているのでしょう?

井上 根本にあるのが、コンテンツ産業における危機感の薄さです。世界有数の市場規模を誇るがゆえに、あえて海外進出を積極的に推し進めなくても、安定して経営を続けることができるからです。海外進出が“リスク”ととらえられてしまうわけです。

既存のビジネスモデルに潜むさまざまなリスク

井上 ここで強調したいのは、従来型のビジネスモデルにも、さまざまなリスクが潜んでいるということです。国内の市場規模は横ばい状態にあり、少子高齢化によって市場規模が縮小する可能性も小さくありません。一方で、日本製アニメやゲームは高い競争力を備えてはいますが、特にアニメでは海外に製作を委託してきたことでアドバンテージが削がれ、一般的に思われているほど高い競争力を備えてはいないとの指摘もあります。

 実際に、10年ほど前であれば、ゲーム、アニメを中心とした日本製コンテンツは海外で飛ぶように売れました。しかし、最近では各国の嗜好に合わせたかたちでコンテンツをローカライズしなければ、なかなか受け入れてもらうことができません。例えば米国や欧州での販売を考えるのであれば、ゲームの場合にはスポーツやアクションをテーマにしたり、アニメの場合には3DCGなどを用いてリアルさを追求したりといった配慮が不可欠となっています。良い作品を作れば売れるという考えは、もはや通用しなくなっているのです。

 ただし、グローバル化を促進すれば、コンテンツの製作手法や販売手法などの見直しを通じてリスクに対処できるようになるわけです。しかも、同一コンテンツを各国に販売することで、コンテンツの資産的な価値を最大化できる。営利の追求を目的とする企業にとって、これは大いに意義のあることです。

 現在、コンテンツ産業の現場では新たな人材の確保が困難になっていますが、これは限られた市場の中でパイを奪い合っている結果、金銭的なしわ寄せが下請けにいっているからではないでしょうか。市場を拡大することができれば、その分、コンテンツ産業に携わる企業の収益も上がり、そうした問題を解決するための仕組みを整備することも可能になるはずなのです。

求められる“したたか”なグローバル化

――コンテンツ産業のグローバル化を進めるための具体的な方策は?

井上 産業の視点から考えれば、他産業と同様、「資本」と「産業」の論理に基づく国際的なビジネス展開がコンテンツ産業にも欠かすことができません。自動車産業を例に取れば、日本の自動車メーカーは国内で販売していないディーゼル車をヨーロッパ向けには生産しているほか、生産拠点を世界各国に展開しています。どんな資源がどこにあり、どこで何をすれば最も市場にニーズに応えられ、しかも利益を最大化できるかといった視点から、したたかにグローバル化を進めているわけです。コンテンツ産業も同様に、作品の制作現場を国内に限定しなくてもいい。また、映画などでは監督や俳優に外国人を起用してもよいわけです。

――その場合、コンテンツビジネスに携わる人材の空洞化を招くおそれがあります。

井上 グローバル化の観点では、ビジネス面での国際交流は推奨されるべきことです。ただし、その結果、優れた人材が国外へ流出してしまうというリスクにさらされることを避けて通ることができません。そこで、国内に整備すべきだと考えているのが、完成品としてのコンテンツの国際取引のみならず、企画やシナリオ、人材、技術、資金など、コンテンツ関連の多様な情報が集積され、取引の場となる「マーケットプレース」です。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆