情報システム部門をドライバーにとらえると、悪質な運転はなかなか減らない。また、その自覚もないまま非常識がまかり通っているケースが多い。
情報システム部門(以下、情シ)は、IT導入へどう関わるべきか、という問いは、あたかも「ドライバーは、車の運転にどう関わるべきか」という問いに等しい。それほど、情シのIT導入への関わりは常識化していると言えよう。
しかし、常識を覆す非常識が世の中に多すぎる。ドライバーのスピード違反、飲酒運転、違法駐車、一時停止違反などなど、道路交通法違反がいつまでたってもなくならない。同じことが、情シについて言えないと断言できるだろうか。
IT導入に当たって、情シに求められる役割は多く、かつ重要である。経営方針を体得して戦略的に取り組め、リーダーシップをとれ、ベンダーとユーザー部門の間に立って両者を適切にファシリテイトしろ、ユーザー部門の意見を充分に反映しろ、などなど。しかし、必ずしもそれらが守られなかったり、誤解されたりするケースが少なくないので、このテーマを話題にせざるを得ない。
大企業某社のA事業所の例である。製造部の生産管理システムを構築するに当たり、情シがまさに「リーダーシップ」を発揮した。直接的には、ユーザーである製造部の姿勢に問題があったのだ。製造部はシステム構築に積極的にコミットメントするとは宣言したものの、日常業務に追われて、どうしても実行が伴わなかった。
まずプロジェクトチームを発足させる際、優秀なB生産管理課長を専従員として派遣しろというプロジェクト側の要求に対して、製造部はBを「半専従」という形で派遣した。Bがライン業務の手を離せないという理由で、午前中はライン業務に従事し、午後にプロジェクト室へ出かけてきた。そして残業時間になると、またラインに戻った。
こんな中途半端なやり方は、大体において失敗する。Bは日頃関係者から頼りにされていたが、それだけにライン業務を離れられず、日がたつにつれて午後のプロジェクトの時間が削られ、1カ月もするとプロジェクトに顔を出さない日もあった。一方で、製造部は自分たちの要求をなかなか整理できず、些細なことや当面の問題にこだわったため、プロジェクトチームと製造部の定例打ち合わせ会議はたびたび紛糾した。
日頃から「ライン部門には思想がない」、「思いつきで要求を出すので迷惑だ」とライン部門に不満を持っていたC情シ課長は、プロジェクト進行の半ばで製造部に期待することをあきらめ、このまま行くとプロジェクトの期限も守れないと判断。製造部を無視し、情シペースで行くことを決心した。しかし、情シ主導のペースでは往々にしてプロジェクトは現場から遊離する。
中堅企業D社の情シでは、情シは黒子に徹するというのが伝統的考え方だった。要するに、情シは前面に出てはいけない、常にユーザー部門を立てて、ユーザーを前面に押し出すのだということである。そんなことにこだわる必要はない、要するにシステムを所期の目的どおりに構築するには情シがいかに有効な役割を果たすかに注力しなければならないと説いても、情シの理解は得られなかった。そこでは、情シの遠慮がプロジェクトの進行を、しばしば妨げる結果を招いた。
中堅企業E社のF情シ課長は、徹底して社内に顔が向いていた。トップの「社外に金を出すことを最小限に抑えろ」という方針を後生大事に守った。結果的に、ベンダーを理不尽な要求で泣かせた。ユーザー部門の無理な要求を、そのままベンダーに押し付けた。いったん約束した仕様を無償で変更させた。自分たちのミスを、屁理屈をつけてベンダーの責任にした。当然、ベンダーとの間はギクシャクし、納得できるシステムが完成するわけがない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授